「はあ、あんな山みたいもんが空へ飛んでいくとはなあ。これからの商売どうなるんだ」 「そんなこと言われても。本当に飛んでいくのか。あっ、マクロスに群がる政治屋が進宙式に向かってますぜ」 「政治屋に騙されたような気がしないでもないんだが」 とマクロス通商店街の会長である板橋と店主が会話している中、何台かの高級車が街を抜けてマクロス近くの待機所へ向かっていく。高級車のある1台の中では、 「この式典は進宙ではない我々が今後も技術を、宇宙開発を主導していくことをアピールするためのお祭りだよ」 「はあ」 「君には分からんだろうが。とにかく今日は司会として盛り上げてくれ、除け者となってしまったムツハシグループやあの一派が悔やむようにな」 「それはもちろん、仕事ですから」 と統合議会の有力議員であるハイマン・グエントとタレントのジョン・スミスが式典についての打ち合わせを行なっていた。 「早瀬提督をこちらに引き入れるために、可愛がっている問題将校を艦長に任命したのだからな。有能な艦長として持ち上げてもらわなくては困る」 「まだ準備が出来ていないって!」 3年生の一条輝は機体の準備が出来ていないことを年上の整備員に詰め寄った。 「せっかくフォッカー先輩がアクロバット演技の推薦をしてくれたのに」 マクロスのブリッジでは 「各ブロックの最終確認をお願いします」 と進宙の準備を進める作戦統括兼航空主任管制である早瀬未沙中尉が指示を出す。 「えー、下はこれから盛り上がっていくんですよ」 通信兼航空管制担当のシャミー・ミリオム士官候補生が愚痴る。 「進宙は昼過ぎに予定されているのよ」 「早瀬中尉が仕事に厳しく時間厳守なのは分かっていますが、みんな進宙式でそれどころじゃないのではないのでは」 と早瀬中尉の指摘に、素早く艦内管制兼通信担当のキム・キャビロフ士官候補生が切り返す。 「あっ、確かに」 「進宙式はイベント盛り沢山でロイもそれどころじゃないからギリギリでもいいんじゃないの」 索敵担当のヴァネッサ・レイアード少尉の言葉に、艦内主任管制のクローディア・ラサール中尉が続ける。 「そうですよ、今日ミス・マクロスが発表されるんですよ」 索敵担当の古森こずえ士官候補生が進宙式のメインイベントを話題にする。 「軍人は対象外だったのを怒っていたのにイベントが観たいの?」 航空管制の大橋恭子少尉が訪ねる。 「もちろん」 と3人の士官候補生が声を揃える。それに苦笑するレイアード少尉と、呆れる早瀬中尉と大橋少尉。 「いいんじゃないの、点検が順調に進んでいれば。私もロイの連れてきた子の演技が見たいし」 士官候補生たちに味方するようなラサール中尉の一言。 「あなたねえ」 と早瀬中尉が呟くと、ブリッジ内に呼出音が響く。いち早く早瀬中尉が反応する。 「航空管制です、何でしょうか」 「横須賀技術学院の一条です。準備が完了しました」 「了解しました。時間まで待機をお願いします」 と最低限の指示をする。別の通話に対応していたミリオム士官候補生が 「早瀬中尉、統合議会議員団の方々が式典会場に到着したようです」 「大橋少尉、アクロバットチームへの指示はお願い。艦長を案内してきます。観るのは空き時間にね」 と言って早瀬中尉がブリッジを出て行く。 「軍というのは思っていたのよりも手際が悪いんだな。フォッカー先輩には悪いけど入隊はなしだな」 と言いながら自販機でコーラを購入する輝。歩きながらコーラを開けようとしていると、横からの衝撃を受け中身のコーラは倒れた女の子の方へ。 「酷いじゃない、服が濡れちゃったじゃない」 「やっぱり縁がないのかなあ。父さん母さんの許可貰ってないし」 直ぐに出てきた油汚れのあるタオルでなく、少しはまともなタオルを見つけ差し出すと 「ごめん」 と謝る輝。 「いいのよ、急いでいて不注意だったのもあるし。でもこの償いは後でね」 「急いでるって?」 「ミス・マクロスコンテスト。候補者の一人なんだよ。あっそうだ、リン・ミンメイです。投票よろしくね」 「リン・ミンメイ?」 「ミンメイって呼んで。それより衣装どうしよう」 「そうだここで待ってて、持ってくる」 「持ってくるって、何を?」 と尋ねるミンメイを無視して駆け出す輝。 戻ってきた輝は 「はい」 と大きな袋をミンメイに渡す。 「これは?」 「軍の作業着。大きいだろうけど。どうせ軍の関係者が多いんだから受けるんじゃない」 と無責任に輝が答える。 「そうかもしれないけど。そうね裸という訳にはいかないんだからそれがいいかもね」 とミンメイが笑う。それをうっとりと見つめる輝。何か言わないとと 「これからアクロバットなんだ。こっちも成功するから、オタクもコンテストうまくいくよ」 「えっ?」 「4番機を担当するんだ。そうだジャケット貸すから、ジャケットをいきなり脱いで作業着をアピールするといいよ」 「4番機?」 いきなり別の方向から 「おーい、輝」 と呼ぶ声が。 「先輩、フォッカー先輩。いっけね行かないと」 と言って輝が走り出す。その背中にミンメイが 「お名前は?」 「ひかる。一条輝」 と言って走り出す。 「ひかるさんね」 「久しぶりだな、輝。邪魔したか」 「そんなんじゃないですよ、フォッカー先輩」 「しかし可愛い子じゃないか」 「遠くからで分かるんですか。ミス・マクロスコンテストに出るミンメイって子ですよ」 「輝の知り合いかあ、協力してやるぞ。アクロバットの準備は出来たようだから頑張れ。まあ学生のアクロバットだから、なんだ期待はしてないけど事故のないようにな」 「先輩、テクニックを期待して呼んでくれたんじゃないんですか?」 「半分以上は輝を呼ぶための口実だ。でもいい演技を披露すれば評価されるぞ」 「何よりもマクロスが安全かつ勇壮な姿で進宙してくれないと盛り上がらないので困る」 とハイマン・グエントの檄に 「はあ」 と素っ気なく答えるブルーノ・グローバル艦長。盛り上がらないグローバルに対して 「まあ最近の君は民間人との折衝がメインで戦闘艦の指揮は久しぶりだろう。それでも10年前の大活躍があったからこそ人類史上最大となる宇宙船の艦長を任せるのだ。期待しているよ」 それでも盛り上がる気配のないグロバール艦長の横で早瀬中尉が少し渋い顔をする。 「まあマクロスと戦闘するような反統合軍もおらんし、仮に異星人と遭遇しても戦闘は避けてもらわんと困るから何事もなくを祈っているが」 と話していると議員秘書が割り込んで 「そろそろミス・マクロスコンテストが始まります」 「では審査会場に向かおう」 と仮設の特別控室から皆が出て行く。 「アクロバットって何で横須賀技術学院の披露なんです?」 「まだゴタゴタしているのに正規部隊でアクロバット披露という訳にはいかないでしょ」 古森士官候補生の疑問に大橋中尉が答える。 「横須賀技術学院といえば技術系軍人育成も目的にあるから、軍関係ですしね」 キャビロフ士官候補生が補足する。 「さっすがキムは詳しいなあ」 「あなたが興味なさすぎんのよ。3年間学んでいれば訓練済みの兵員として、5年間で下士官に登用できるんだから。部下になるかもよ」 と呆れながらミリオム士官候補生へ補足するキャビロフ士官候補生。 「そういえばレイアード少尉は軍へ戻ってきたんですよね?」 「そうよ、軍で経験したレーダーを深く学ぶのに大学へ行ったんだけど、宇宙空間に実践してみたくて。それからヴァネッサと呼び捨てでいいわよ、こずえ」 「士官候補生の3人は単位が目当てでしょ」 「はい、大橋少尉」 と3人の返事が揃う。 「恭子は?私もクローディアでいいわよ」 「宇宙に行った人を追いかけてということにでもしてください、クローディアさん」 と寂しく笑う。 「どんな人ですか」 「男?」 「恋人とか」 「こら遠慮が無さ過ぎるぞ3人とも」 「いいですよ、ヴァネッサさん」 と苦笑して大橋少尉が答える。 メインスクリーンに映っているミス・マクロスコンテスト会場の様子を確認すると大橋少尉がアクロバットチームへ連絡する。 「航空管制です、滑走路での待機をお願いします」 「横須賀技術学院アクロバットチームです。4番機以外は準備が出来ました」 「4番機だけ準備ができていない? 4番機、4番機」 「遅れました、4番機一条です」 「一条さん、準備ができていないとは弛んでいるのではないの」 「すみません先輩と話していたものだから」 「言い訳はしないように」 「準備完了しました」 と叱責しようとすると手早く4番機から準備完了の連絡が。 「では各機、滑走路で待機してください」 と通信を切る。 「乗り込んでから準備するまで早かったですね4番機」 「事前の準備ができていないし、無駄なことを話そうとするし」 とミリオム士官候補生の言葉に、厳しく返答する大橋少尉。 『こわ』 と小さく呟くミリオム士官候補生。クローディア中尉が 「まだ学生さんなんだから大目にみてあげないと」 「でも軍人になることもあるんですよね」 「こずえの言い分の方が一利ありません?、クローディアさん」 と大橋少尉。重くなった空気を変えるようにキャビロフ士官候補生が 「私たちもアクロバットチームへの指示をするためにもミス・マクロスコンテスト中継を見ていないと」 「どんな子が最終候補に残ったんだっけ?」 とレイアード少尉の言葉に、それぞれが気になった子の話を始めるブリッジオペレーターたち。ミス・マクロスイベント会場から連絡があり 「航空管制です、演技開始は地上解説員のフォッカー少佐の指示に従ってください」 と大橋少尉が指示を出す。 MCのジョン・スミスの進行でコンテストが開始される。来賓として統合議会議員のハイマン・グエントとマクロス艦長のブルーノ・グローバル、それに女優のジャミス・メリンが紹介される。事前のネット投票で選ばれた最終候補者20人がそれぞれ自己アピールを行って、会場にいる来賓来客の投票によりミス・マクロスが決定することを説明したMCのジョン・スミスが 「ミス・マクロスコンテストに華を添えるべく横須賀技術学院のアクロバットチームが駆けつけてくれました。若き彼らのアクロバットを解説していただくのは、これまでに50機を撃墜した統合軍のトップエースであるロイ・フォッカー少佐です」 「未公認を入れれば100機撃墜しているロイ・フォッカーです。これから演技を披露する機体は中間練習機であるT-4であります。この中間練習機から最新鋭機VF-1へのステップアップを行っていきます。VF-1およびT-4については、あちらの格納庫内に地上展示機があります。では離陸します」 4機のT-4が滑走路から離陸していく。イベント会場を一度通過すると上空で旋回して、会場上空で4機が密集したダイヤモンド隊形をとる。 「4機でダイヤモンド隊形を維持したまま会場上空を旋回します。先頭の1番機の後方に4番機がおりますが、少しだけ高度を変えて気流の影響を受けないように飛行しています」 演技を見ていたミンメイが 「輝って、飛行機の操縦上手いんだ」 その後も演技が進み、最後に4機がそれぞれの方向から進入して会場中央で上昇しながらスモークを作動させていく。3機は途中で水平飛行に戻るが、1機だけ降下していく。 「4番機、4番機、おい輝、何かあったか?」 とフォッカー少佐の呼びかけるを無視して、4番機はイベント会場へ低空で進入してきれいなループを描いた後通過していく。大騒ぎとなるイベント会場の中、 「あのバカ」 と呟くフォッカー少佐。 その一方で 「輝、Vサインしてた。私も頑張らなくっちゃ」 と喜ぶミンメイ。 「Vサインしてたの見えたかな」 と機内で呟くと、強制通信が入り女性航空管制官が興奮気味に 『あなた、一人だけ勝手なことをして』 と激しい口調で話してくる。 「イベントを盛り上げようと思って。学生のアクロバットだからって内容がいまいちと言われるのも悔しいし」 『あなたねえ』 「5年生でも飛行技術はたいしたことないから仕方ないんだけど」 『確かに。4番機は上手かったけどそれ以外はちょっとねえ』 『そもそも軍人なら命令無視は営巣入りです』 『クローディア、ここで輝を褒めるな』 「あっ、先輩。顔にシワを作っておばさんのように怒鳴り散らされるより、褒めてくれる方が嬉しいんですけど」 「おばさん! 人をおばさん呼ばわり。上官の侮辱も営巣入りよ」 「大橋少尉、あいにくだが学生なんで営巣に入れるわけにいかない。輝、おまえも言い過ぎだ謝れ」 「何をですか?」 「おまえ分かっていてとぼけていないか。大橋少尉、ミス・マクロスコンテストの方から盛り上がったんで厳しくするなとのことだ。アクロバットはミス・マクロスコンテストの管轄だからな」 「失礼しました美人の管制官殿。着陸許可をいただけませんでしょうか」 嫌み混じりの輝の言葉に、古森士官候補生が苦笑する。その古森士官候補生へ厳しい視線を送り気付いたのを確認してから 「了解、くれぐれも規則厳守でお願いします」 と感情を込めずに大橋少尉が返答する。 ミス・マクロスコンテスト会場上空で輝がループを決めると場内が盛り上がる。 「きれいにループを決めながら、誰かにVサインしてたぞ」 「Vサインって何、マックス?」 「君には見えなかったのかい?」 とマクシミリアン・ジーナスが隣にいる女の子に返答する。 「横須賀技術学院の学生ってことは同じぐらいの歳だよな、僕にもできるかな」 早瀬中尉はグローバル艦長がミス・マクロスコンテスト会場に入ったのを見届けると、進宙するマクロスを眺めようと歩き出す。周囲を見渡すと、始まったばかりのミス・マクロスコンテスト会場や多くの軍装備の展示に人が集まっている。平和でのどかな様子に満足して改めてマクロスを見てみると、一人だけマクロスのセンターブロックを見つめている人間に違和感を感じた。近づくと機材を持ち込んでセンターブロックの壁面を熱心に見ているようだ。 『このサイズでこの繰り返しからすると』 と小さく呟くのが聞こえた。その内容が気になって 「すみません、統合宇宙軍のものですが何か?」 怪訝な顔をしながら早瀬中尉に振り返ったのは若い男だった。 「説明しにくいな。この艦を間近で見る機会なんてそうないので見ていたのですが。軍事機密で営巣入りですかね」 「公開エリア内から見られているので特に問題ありません。ただ」 「ただ?」 「呟かれていた内容が気になってしまって。サイズと繰り返しって?」 「聞かれていたのか。どうやらセンサー反応の結果、微妙に厚みに差異があるようで傷という感じではなく」 「誰も気付かなかったのかしら」 「これだけ大きいですから全部を確認したとは」 「それで?」 「ここからは機密事項になるのかな、どこまで話を進められるのか。私は研究科学部直轄のシステム工学研究センターからでして、デストロイドやVF-1のバトロイドをどのような目的で利用するつもりなのかを知っているのですが。中尉さんはご存じで?」 「どう答えるのがいいのでしょうか」 「建設用重機にしては贅沢がすぎる。小さな大人たちが、大きな人と喧嘩するための道具ぐらいに使えない。で大きな人との肉弾戦をするようなことにならないことを祈りますが」 と言って軍を試すような厳しい言い回しをしてくる。早瀬中尉は首から下げている招待カードを見ながら 「バトロイドをご存じということは詳しいようですね、三池さん」 「システム工学研究センターの三池です」 と言ってシステム工学研究センター所属の三池和史という身分証明書を提示する。 「で、続けます。意図的につけているのではと。そうなると何かの印ではないのかと」 「巨人の船にしては小さくないですか」 「すべてが巨人だったということもないのでは。これまでの巨人のものとは少し違うようなので、もしかして別の数字か文字ではないかなと」 「我々と近いサイズの?」 「私の勝手な想像ですが、可能性としては。我々も一種類しか文字や数字を使ってきたわけではないですし」 その言葉に感心したように、早瀬中尉が三池の端末をのぞき込んでパターンを確認すると 「確かに可能性はありますね」 「あくまでも可能性ですが。意外ですね、軍人の方にしては柔軟な考えで」 「そうですか? 名乗っていませんでしたね、統合宇宙軍でマクロスに搭乗する早瀬未沙です。より詳細なことが分かったら知りたいので、連絡いただくことはできますか」 「知的好奇心を満たすことは人として大事ですからね。それに美人からのお願いですし。連絡先を教えていただければ」 と言って端末を早瀬中尉へ向け、連絡先の入力を促す。連絡先が入力されたのを確認すると 「今、そちらへこちらの情報を送ります」 と言いながら操作を行う。操作が終わると、一機のT-4が低空で進入して雲一つない青空へきれいなループを描く。 「きれい」 と二人の声が揃う。だが三池の 「大丈夫ですかね、あんなことして」 という言葉に早瀬中尉が 「確かに。詳細を確認します。当艦は点検作業中で危険ですので艦には近づかないでください。正式に調査希望の依頼があれば検討させていただきます。今は格納庫にあるVF-1をご覧になってはいかがでしょうか。詳細を説明させるようにしますので」 と丁寧ではあるがやや強い口調で言い、懐から艦長名義の招待カードを出し三池の名前と連絡欄に自身のサインを記入して手渡す。 「では失礼します」 と小走りで去って行く。残った三池は受け取った招待カードを見ながら 「艦長名義とはねえ。早瀬未沙?早瀬提督の?」 フォッカー少佐が格納庫に向かうと、T-4を降りて待っている輝へ声をかける。 「おまえがしでかしたおかげでコンテスト会場から追い出されたんだぞ」 「なんでまた」 「おまえがまた何かしないように監視しないとな。コンテスト会場の方には近づくんじゃないぞ」 「ちぇ。そういえばミンメイのこと頼んでくれましたか」 「会場内にいる部下たちに連絡しておく」 といってフォッカー少佐が端末を操作して連絡する。 「経験少ない学生たちの演技としてはまあまあだったぞ。親父さんゆずりと輝が一番だったが。少しは上手くなったようだが、滅多にない機会だ鍛えてやる。VF-1の操縦シミュレーターカプセルに乗せてやる」 とVF-1の操縦シミュレーターカプセルに向かっていく。カプセルの近くでスタッフが 「フォッカー少佐! VIPへVF-1の説明を。なんでも早瀬中尉殿の紹介で」 「わかった。こっちに連れてきてくれ」 シミュレーターの準備を進めていると、スタッフが若い男を連れてくる。 「VF-1の説明をご希望とのことで。フォッカーです」 「フォッカー少佐? エースのフォッカー少佐ですか。三池です。具体的にはどのような説明を? 操縦シミュレーターのようですが」 と三池が操縦シミュレーターカプセルに視線を一度向けて確認する。 「今回は特別に操縦シミュレーター体験をしていただこうかと」 「確かに興味深い体験になりそうですね」 操縦シミュレーターカプセルに輝と三池の二人を入れると、フォッカー少佐は最低レベルに設定して手順を指示していく。 「基本的な離陸手順はT-4と大差はない。で分かりますか、三池さん」 「三池で結構です。T-4は経験ありませんが、通常の航空機と同様ですよね。あと当機のコクピットシステムについては別で説明を聞きました」 「おい、輝」 「準備できました先輩」 「お二方の関係は?」 「小さい頃に飛行技術を教えてくれた恩師の子でね。後ろを付いて離れないかわいい弟みたいなもんです」 「先輩」 と情けなく輝が声をあげる。 「実力を見せてみろ輝。では三池さん始めます」 早瀬中尉が髪を掻き上げながらブリッジに入ってくる。 「何事もなかった?」 少し怒ったように大橋少尉が 「特には」 と素っ気なく答えるが、ブリッジが沈黙につつまれる。しばらくするとミリオム士官候補生が 「アクロバットで勝手なことをした学生さん叱ったら、おばさん呼ばわりされたぐらいで」 「シャミー、あなたが?」 「こらシャミー」 「私に向けてです」 と重い口調で大橋少尉が答える。 「学生なんで命令に慣れていないんでしょ。深刻に考えないことね」 「私もおばさん呼ばわりされるかしら」 「こずえはいいわよ、若いんだから。私だとなんと呼ばれるのかなあ」 「ヴァネッサさんは実年齢よりも若く見えますよ」 ミス・マクロスコンテストの中継でMCが 『横浜出身16歳の高校生ですか』 『はい、リン・ミンメイです』 『変な衣装ね。ジャケットは横須賀技術学院のじゃない。彼氏の?』 『いえ、大切なお友達からです。衣装を汚したんで貸してくれました』 『大切なお友達ねえ?」 『今日初めて会ったけど大切なお友達になりました』 『なら誰とでも仲良くなれそうね」 『はい、特技です。ジャケットの下は』 と言ってミンメイがジャケットを脱ぐと、作業着姿となる。 『これから進宙する皆さんと一緒に作業できないかなって』 中継を見ていた古森士官候補生が 「ずいぶんとたくましいというか、作業着アピールがあざといというか」 「確かに私には無理だわ」 「どう頑張ってもシャミーが最後まで残ることはないから心配しなくても大丈夫よ」 「キム、なによ」 「かわいい子じゃない、アピールもうまいから投票を集めるんじゃない?」 「クローディアさんの一押しですか」 「ヴァネッサは?」 「これまでの中では一番目立ってはいる子ですよね」 「二人は興味ないの?」 とミス・マクロスコンテストの話題に加わらない二人へラサール中尉が聞くと、早瀬中尉は 「艦長が何かしないかは気になりますけど」 と答えたが、大橋少尉は先程の件にまだ収まりがつかないのか返事もなかった。 「艦内各所へのエネルギー供給状況を確認して」 早瀬中尉が指示を出す。 ジャケットを脱いだミンメイにMCのジョン・スミスが 「コンテストに出るには珍しい衣装ですね。アクティブに動けそうですね」 「従兄弟に拳法を教わっていたので、披露できますよ」 「いいですねえ、是非とも」 と言われて拳法の型を披露するミンメイ。 「どうだったでしょうか」 「可愛らしかったですよ、ではこれでよろしいですか」 「すみません、まだ歌の披露があるんですが」 「おー、これでは殴られてしまう」 オーバーアクションで謝ると会場内が盛り上がり、その盛り上がりを確認してから 「では松田聖子さんの赤いスイートピーです」 と言ってジョン・スミスが舞台上から捌けていく。 VF-1の操縦シミュレーターカプセルから出てきた輝と三池が揃って大きな深呼吸をする。 「お見事ですな、和史。すぐにでも私の部下に欲しいぐらいだ」 「なら後輩さんはもっと部下に欲しいでしょう。輝くん、軍隊入りかな」 「三池さんと同じぐらいじゃ駄目でしょ」 「輝、自信を持て。二人ともシミュレーターの成績だけなら、平均的な部下よりは上だ」 「なんか会場が盛り上がってますね。ミンメイ大丈夫かなあ」 「会場にいる部下にはお願いしておいたからな」 ミス・マクロスコンテストの中継映像が映ったモニタを見ると作業着姿のミンメイが歌っている。 「VIPですからVF-1の練習機に乗ってみては」 「私が乗れば輝くんも乗れるからですか」 フォッカー少佐は苦笑しながら、整備員に 「パイロットスーツを2着準備しろ」 と指示を出す。 パイロットスーツへ着替える最中に 「輝くんは軍人になる気はないのかな。フォッカーさんは待っているようだけど」 「どうも人殺しってのは」 「確かに。でも避けられない状況になってしまった人を守ることもできるのでは。自身の心がけが必要だろうけど」 「すごいですね、おいくつですか?」 「23かな」 「僕より5才上ですが、しっかりされてますね」 「5才分の経験が差に出てるかな」 と輝と和史が会話をしているとモニタから 『ではまず各賞からの発表です』 との声が。すると輝が 『ミンメイ』 と呟き、それを和史が微笑みながら見つめる。 「では最後に我らがミス・マクロスの発表です」 ジョン・スミスがクライマックスが近いことを告げる。このアナウンスで会場の緊張感が高まり静まりかえる。 「ミス・マクロスはリン・ミンメイ」 新たなヒロインの誕生に会場が大きく盛り上がる。ミンメイは驚きの表情で声も出せないまま、舞台中央に呼ばれる。 「ミンメイさん、感想をどうぞ」 「まだ信じられないです。投票してくれた皆さんのおかげです」 「インパクトのある衣装でしたね」 「作業着を貸してくれたお友達が諦めるなって応援してくれたんです」 「ミス・マクロスになりましたが今後は」 「今回私もお友達から勇気をもらいました、今度は皆さんを勇気を与えていけたらと思います。特に歌うことでできればと」 「それではトロフィーを統合議会ハイマン・グエント議員から渡していただきます」 軍用パイロットスーツに着替え終わった二人にフォッカー少佐が 「準備出来たか」 「先輩、協力ありがとうございました。おかげでミンメイがミス・マクロスになりました」 「部下たちが協力したおかげだな。そういえば輝、ミンメイちゃんとどんな関係だ」 「ついさっき知り合っただけですよ」 「輝おぬし、あんな子がタイプか。そうでなきゃ、あんな無茶しないものな。あちらはミス・マクロスになったんだ、頑張れよ」 「無茶?」 「低空でループした4番機」 「それはかなりの無茶だ。まあライバルが増えそうだから、輝くんにはいいアピールになっているといいね」 と年上二人が輝をからかう。 閃光とともに10ほどの物体が突然宇宙空間に出現する。 「この星域だと良いのだが」 「はい、ブリタイ閣下。これで何度目となりますやら」 「エキセドル、記憶参謀にしては雑な表現だな」 「ブリタイ閣下、近辺にかすかなフォールドの航跡を発見しました。近傍空間には物体がありませんので、第三惑星かその衛星に落下した可能性があるかと」 「分かった、ヨーグイン。調査隊の編制を行え」 「静止軌道上のアームド1より強い発光現象が確認されたとのことです」 とミリオム士官候補生が通信内容をブリッジに伝えると緊張感が高まる。 「艦長へ連絡して。こちらでも何か異常を検出していないか確認して」 と早瀬中尉の声に、古森士官候補生が 「こちらでも重力波の異常を検出しました」 結果を報告すると、レイアード少尉が 「以前あったように突然出現した模様です。おそらくフォールドではないかと」 と詳細情報を告げる。 「艦長へ連絡して」 「そういえばこのVF-1って、不思議な操作システムですね」 「このVF-1は通常の飛行機と違って宇宙空間でも活動可能だ。それ以外にもまあ軍機ってやつだ、秘密があるんだよ」 「軍機ねえ」 とフォッカー少佐の言葉に輝が呆れたような返事をする。 「そもそもマクロスが落ちてきたおかげで、いろんな技術が得られてワークロイドが実用化された。それを軍も応用してデストロイドに発展していったのだから、飛行機でもいろいろあるんでしょ」 「三池さんはご存じで?」 「VF-1の操縦系システムを知ってますので、どうなるかは」 「ではそれは機密ということを承知してなすな。輝、まあなんだ飛行機には間違いないから訓練だと思え。まずはそのスーツを着て30分間の耐重力訓練を受けてくれ。何かあれば内側からボタンを押せば訓練は終了だ」 といって訓練装置に二人を入れ、訓練開始のボタンを押す。 「まずはクローディアに頼んでみるか」 とブリッジのラサール中尉へ連絡する。 『何、ロイ?忙しくなりそうなんだけど」 「何かあったのか」 ブリッジ内では 『フォールドしてきた一群から一部が分離しました』 『総員呼び出しを行いますか』 『艦長の判断を待ちます』 『艦長より監視を続けるようにと。ブリッジに向かうとのことです』 一連の声を聞いてフォッカー少佐は異常事象が発生したことを認識する。ラサール中尉へ 「分かった、スカル大隊を招集しておく」 と言って通信を切る。その後、スカル大隊のメンバーを集合させるべく、一斉メールを作成しながら愛機のある戦闘用格納庫へ向かっていく。 ミス・マクロスコンテストの表彰式が終わり演説を始めたグエント議員の後ろで待機するグローバル艦長へフォールドの情報が届くと、 「フォールド?まずは監視を継続だ。ブリッジへ向かうと」 と返答し、MCのジョン・スミスとグエント議員の秘書に 「新たな異星人が出現した可能性があるますので、ブリッジで状況を確認します」 「この後、スピーチがありますが」 「申し訳ありませんが緊急事態ですので。では」 と言ってステージから退出する。そんな中、グエント議員のマクロス進宙に対する自身の成果アピールが続く。 ブリッジでは監視を続けている。 「統合宇宙軍司令部で調査部隊を編成しているとのことです」 「こちらで緊急対応をする必要はなさそうね。少し早いけど進宙式に関係していない艦内要員は進宙の最終準備をするようにコールしてキャビロフ士官候補生」 「了解しました」 「即応体制ということでしょうか、早瀬中尉」 「そこまではいかないけど、何事にも対応できるようにね。何かあれば大橋少尉の判断で移行して」 「分離した数は1」 「1km前後はあり、オーベルト級より高速に移動しています」 と古森士官候補生とレイアード少尉が詳細を伝える。 「こちらの主力艦より大きくて高速って、攻撃されたら相手にならないんじゃあ」 「今更マクロスを降りられないし、こっちの艦隊が負ければどこにいても危険よ」 「そういうこと、シャミー、キム。皆も覚悟しなさい」 とラサール中尉が経験者として、場を引き締める。 「惑星軌道上に小型艇をいくつか確認」 「小型艇であれば問題なかろう、強行偵察をする。先行隊を惑星軌道近辺にフォールドさせろ」 「了解」 「分離した部隊近辺で発光現象を確認」 「300km上空に発光現象を確認。どうやら分離した艦が再度フォールドした模様」 「近距離間でもフォールドして移動するのね。司令部からの指示は」 と索敵チームの報告を受けて、早瀬中尉がミリオム士官候補生に確認する。 「突然の事態で混乱しているようで何も」 「どうだ」 「軌道上の小型艇に関する情報が届きました。これは?」 「何だ」 「初めて見る小型艇です」 「調査参謀が知らんとは、エキセドル」 「私も初めてです」 「調査参謀のヨーグインのみならず、記録参謀のエキセドルも初めてとは」 「まずは調査ポッドを惑星に降下させます」 ラサール中尉が 「何、主砲ユニットが勝手に動作してる」 と叫ぶと同時にグローバル艦長がブリッジに入ってくる。 「全システム・カット」 「駄目、動作が止まらない」 と早瀬中尉とラサール中尉が会話している間に、マクロスが軽く揺れ主砲ユニットから光が上空に伸びていく。 「軌道上の大型物体が消滅しました」 とレイアード少尉が感情を込めずに報告する。一瞬静かになるが小規模な爆発音が響き、マクロスが先程よりも大きく揺れて、ブリッジに悲鳴が重なる。 「大丈夫か」 とグローバル艦長がブリッジ要員に確認する。ラサール中尉から 「異常な動作が止まりました」 「この艦の旧防衛システムが発動したのか。結果的にブービートラップと大差ないな」 とグローバル艦長が呟く。それを聞いたミリオム士官候補生が 「ブービー?」 「撤退時に仕掛けて残された罠のことよ。よく分からないのに使用するからです」 「まったくだ、早瀬君」 「艦長、小型物体を分離していたようで大気圏内に突入しています」 とレイアード少尉の報告に、グローバル艦長が自嘲気味に 「何かあっても決してこちらからは発砲するなとの指示だったのだが。早瀬君、第一級戦闘体制に移行。ラサール君、艦の浮上準備を進めてくれ」 「イエッサー」 「総員戦闘準備。繰り返す、総員戦闘準備。これは演習ではない」 「大気圏内から軌道上へ威力を及ぼすとは。この威力はまさしくあの艦ではないかと」 「そうだな。今度は全艦で移動する。ヨーグイン、調査隊を編成しろ」 「調査艦が失われましたので、大気圏内での調査を更になりますと地上へ降下させることになるかと」 「となると艦も低軌道へ降下させる可能性が高くなるな」 『スカル大隊、準備完了』 「了解。マクロス上空で降下してくる物体への備えをしてください、フォッカー少佐」 『そういえば進宙式での行事はどうなった?説明しないで残してきた招待客がいるんだが』 「進宙式の式典は中止となり民間人にシェルターへ退避を進めています」 『わかった、早瀬中尉』 とのやりとりの後ろで、 「降下物体はどうやらマクロスを目指しているようです」 との古森士官候補生の報告に続いて、レイアード少尉が 「再度フォールドと思われる発光現象と重力波の異常を感知。残りすべてが低軌道に移動してきたようです」 「軍人さん達が騒がしくなったけど、大丈夫かしら」 コンテストの表彰とお偉い人のスピーチが終わると、ミンメイは大勢のスカウトに囲まれていた。外で轟音が聞こえると多くの軍関係者が退出し、それを見て報道関係者は議員や軍の広報へ取材を開始する。遠慮のないスカウト達も、異様な気配を感じていたのかそれほど熱心ではなかった。飛行機の飛び立つ音が複数聞こえ、『スクランブルしてる』など通常では聞かれない話題が多くなってきた。すると 「マクロスの準備が整い緊急発進します。危険となりますので、民間人の皆様は安全な場所へ避難してください」 と若い女性の声でアナウンスが告げられた。 「急いで避難しなくっちゃ」 とミンメイは他の人たちとコンテスト会場を出る。 耐重力訓練装置から出た二人は周囲に人がいないことに気付く。 「先輩どうしたんですかね」 「整備員が機体の準備をしているようだけど」 と現状を確認する。三池が情報端末に近づいたタイミングで 「緊急事態。展示格納庫の機体を至急退避させるように」 と若い女性の声で格納庫内にアナウンスが流れる。そして情報端末に少尉の階級章を付けた若い女性が映る。 『展示格納庫、そちらにパイロットは・・いるようですね。あなたと後ろにももう一人』 「はっ?」 『今のアナウンスを聞いてなかったの?展示格納庫にある2機を至急空中に退避させてください』 「いや」 『機体に最低限の武装は指示しました。パイロットスーツを着ているんだから緊急事態にすぐ対応しなさい。5分以内に離陸するように。命令違反は営巣入りよ』 と言って通信を切る。 「おい、輝くん、5分以内にその機体を離陸させないと大変なことになるらしい」 と三池が呼びかけて機体に向かう。 「先輩は何してるんだろ」 『正体不明の降下物体は100mほどです。こちらからの先制攻撃は禁じます』 とブリッジから指示が入る。機上のフォッカー少佐は 「久しぶりの実戦になりそうだが、相手が100mとはねえ」 とすぐに降下物らしき大型物体を確認する。 「確認した。スカル大隊注意しろ」 輝がVT-102とある記載されている機体に乗り込むのを見て、VT-101の後部座席に自身の荷物を放り込んでから三池が前部座席に乗り込む。準備が整ったことを確認すると航空管制へ 「VT-101およびVT-102の離陸準備完了」 と告げる。先程の少尉が 『両機はタイミングをみて離陸し、上空にて新たな指示に従ってください』 と曖昧な指示を伝える。 「輝くん、聞こえたか」 『好きになれない指示ですねえ』 「まずは離陸だ。ここで揉めるより上がった方がいいだろう。しかし確認もしないとは」 急にマクロスから離れて避難するように伝えられた観客やコンテスト関係者が移動を開始し、大混乱を引き起こす。その中でミンメイが忘れ物に気付く。 「いっけない、来るまでに着てた服や輝に借りてたジャケットを楽屋に忘れてた」 と言って避難していく人々に逆らい、楽屋へ戻ろうとする。 「降下ポッドの準備をお願いします。調査団として地上へ青い風を準備します」 「わかったヨーグイン」 「展開されている小型艇については記憶にありません」 「そうかエキセドル。正体不明な以上、向こうが近づいたり発砲しないがぎりこちらから何もするな」 「民間人の退避状況はどうなっている」 「まだ少し時間がかかるようです」 とグローバル艦長の問いにキャビロフ士官候補生が答える。続けて 「クローディア君、艦の状況は」 「重力制御システムは起動できそうです。ただ」 「ただ?」 「地球側で取り付けた方は問題ありませんが、元からあるのについては」 「信頼ならんということか」 そのやり取りにミリオム士官候補生が割り込む。 「艦長、統合宇宙軍から迎撃命令が下されました」 「なんと」 「どうやら返答もなく大気圏内に進入されたのが大きいようです」 「うーむ。早瀬君、バルキリー隊へ向こうから攻撃があれば迎撃してよいと指示してくれ」 「艦長」 「何も情報がないのだ。向こうの動きを見るしかあるまい」 「イエッサー」 ブリタイ艦に先行している艦が突然爆発する。 「なんだ突然」 とブリタイが声をあげると、その横でエキセドルが 「そんな、もしや、まさか」 と声をあげる。ブリタイが 「なんだ」 と尋ねるが、エキセドルは思い出すかのように考え込んでいる。 「記録参謀には思い出していただきましょう。どうやら軌道上の小型艇からの攻撃のようです。まずはあちらを」 「対処しろということだな。各艦発砲して小型艇群を殲滅せよ」 離陸した2機が上昇していくと 「スカルリーダーより各機へ。実弾モードに変更せよ。距離を取りつつ、何かおかしな動きがあれば撃て」 とフォッカー少佐の指示が聞こえてくる。 「先輩」 「輝か。お前なんで戦闘機乗りに」 「良く確認しない航空管制に脅されまして」 「三池さんもですか」 「先輩、あれなんですか?あんなに大きな飛行物体って」 「宇宙からの来客だ」 「撃てということからすると友好の使者を迎えるって感じじゃないですね」 「緊急事態だ、二人ともマクロス近辺で待機だ。三池さん、輝のこと頼みます」 とこの場から離れるようにフォッカー少佐が指示をする。そのときに不明物体から光線が伸び、何機かのVF-1へ向かう。ほとんどの機には影響がなかったのだが、輝の乗ったVT-102に光線がかすめVT-102は大きく揺れ降下していく。 「輝」 とフォッカー少佐が叫ぶが 「少佐、輝くんは私が」 すぐにVT-101が降下していく。 「頼みます」 と言ってフォッカー少佐は正体不明物体へ意識を集中させる。 「アームド1を主力とした艦隊からの連絡がなくなりました」 「ビーム兵器による攻撃です」 とミリオム士官候補生と古森士官候補生が報告する。 「うーむ、ほぼ壊滅ということか」 とグローバル艦長。 「反応弾の影響で詳細は不明ですが大きな損害を与えたようです」 「民間人のシェルターへの退避はほぼ完了した模様です」 とレイアード少尉とキャビロフ士官候補生が報告する。 「アームド2は?」 「アームド2はアームド1に向かっています」 とグローバル艦長の問いに早瀬中尉が答える。 「上空の正体不明物体より発砲」 と大橋少尉が報告する。すぐに早瀬中尉が 「対空戦闘用意。警戒して」 「バルキリーにも被害が出た模様」 「交渉するから攻撃するなと再三注意を受けたのだがな。これからは敵と呼称する」 とグローバル艦長が諦めたように攻撃を決意する。 機体を完全に制御することができず、徐々に降下していくVT-102。そのコクピットの中で輝は 「制御しきれない。死ぬときは親父のように飛行中の事故でもいいとは思っていたけど、撃墜されるのは」 と叫ぶ。機体は制御不能となり急降下していく。地上が近づいていくなか三池が 「輝くん、セーフティキーをVゾーンに入れて、横にあるパネルのFレバーを上げてBレバーを下げて。両方のフットバーに力を入れて維持する」 と操作の具体的な指示をする。 「三池さん、わかった」 と言って指示に従うと、VT-102は変形しながら落下していく。それを見ながらVT-101は周囲への警戒を行いながら降下していく。 ミンメイは人のいない楽屋に着くと、急いで自分の衣装と輝のジャケットを持って楽屋からそして建物から出る。すると背中から大きな音がして、衝撃波が伝わってくる。振り返ると建物に何かが落下したようだ。 どうやらVT-102が落ちた先にあった建物がクッションとなったようで、輝は大きな怪我をしないですみ機体も分解していないようだ。
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