「早瀬中尉、小さい物体が1つ島に降下した模様」 と三池が報告する。 「助かります。三池さん」 と未沙が返答するが 「確認したが地上には避難できそうな場所がない。マクロス内へ避難させてもらう」 三池は返答中に捲し立てる。そして 「急ぎ輝くんたちを連れてくる」 と言って通信が切れる。 VT-102のコクピットは大きく損傷しておらず、二人は気を失っている。先に輝が気付き、後部座席を見る。ミンメイは出血はなく見る限り、怪我はしていないようだった。自身も大きな痛みがなく問題ないことを確認すると無意識に 『あの巨人たちって』 と呟く。するとミンメイが 「うーん」 と言って意識を取り戻す。すぐに 「ミンメイ、大丈夫」 「ええ。輝、いったい何があったの」 「それは」 と言っている間にVT-101が近寄ってくる。三池から 「輝くん、ミンメイさん、無事か」 「ええ」 と答える。 「何があったんだ」 と聞くが輝が答えない。するとミンメイが 「急上昇したんです。そうしたらいきなりダンダンダンと大きな音がして」 「輝くん、発砲したんだね」 「そんなつもりはなかったんです」 と輝が力なく返答する。三池が優しく 「ミンメイさんを守るためだろ。何かあれば発砲するようにと言って置き去りにしたのは私だ」 「でも、あんな巨人だなんて、あっ」 と輝が言いすぎたと思い止めるが、ミンメイが 「巨人?」 と聞いてくる。三池が 「マクロスが異星人の船だということは知っているよね。あの特徴的な先端部は主砲で戦闘艦なんだ」 「戦闘艦?」 とミンメイが聞き返す。 「そうだよ。戦闘艦であるということは戦争が行われている可能性が高いということだ。そして各所に落ちた物体およびこのマクロスでの調査の結果、人類の6倍から7倍の大きさの巨人ではないかと推測されている。輝くん、巨人がいたんだね?」 「はい」 と輝が答える。 「最悪なファーストコンタクトになったな」 「三池さん」 「発砲したのは輝くんの責任じゃない。結果として輝くんに押しつけてしまった私の問題だ。すまない。ここでは危険だ。マクロスに行って詳細を解析させてくれないか。改めて機体のチェックをしよう」 ガウォークからの弾丸を受けて3人は散開する。ガウォークは見えなくなり、静まりかえる。ワレラが 「大丈夫か」 と答えるとロリーが 「カメラは大丈夫だ」 と答えるが、コンダが大きな声で 「おい、イツモ」 と出血して倒れている同僚に声をかける。 「まだ助かるかも」 「イツモを担ぐぞ」 「そうだな調査も終わりの時間だ」 マクロスは揺れながら少しずつ高度を上げていく。キムが 「主砲は制御不能、満足に上昇もできない。これで良く進宙式なんて」 「やっぱり単位のためとはいえ怪しい艦に乗るんじゃなかった」 というこずえの嘆きとも悲鳴ともとれる言葉に、恭子が 「私だって泣きたいわよ」 と叫ぶ。続けたグローバルが 「そうだなこんな状態でも進宙式を強行しようとした統合宇宙軍幹部の焦りが招いた事態だな」 と叱ることなく語る。それを聞いたヴァネッサが 「統合宇宙軍幹部の焦り?」 「統合政府だけでなく、統合軍からも無駄な浪費と揶揄されてるからな」 とグローバルが答える。シャミーが 「でも早瀬中尉のお父様は統合宇宙軍の提督ですよね。支援要請できないのですか」 「軌道上の艦隊も全滅。司令部にも有効な武器はないんだから期待しないで、今できることする」 とクローディアがいち早く切り返す。シャミーの言葉に何と返すか考えていた未沙が小さく息を吐く。すると 「早瀬中尉、VT-101とVT-102はマクロスへ向かいます。VT-102が損傷しているようなので最寄りの右舷後方に向かいます。右舷後方には巨人艦が接続されていますよね」 「えっ、貴方」 「巨人のことは承知してます。輝くんが遭遇して発砲したそうです。VT-102から情報を引き出したいので急ぎマクロスの艦内へ」 「分かりました」 「取得できた情報はそちらへ送ります。あと宇宙服の手配と安全な機密区画に関する情報を提供してください。まさか宇宙へ出るのにエアロックの確認をしていないとかはないですよね」 「既にエアロックの確認は完了しています」 「さすがですね。いきなり宇宙区間に出て死ぬというのはちょっと」 「いきなり宇宙空間に出て?」 とその言葉にグローバルが反応する。 「では宇宙服のサイズを確認させてください」 と未沙が確認していると、グローバルが 「改めて艦内のエアロックを確認。他にも各所で機密状況を確認。可能な限り宇宙服を用意させるように伝達」 と指示する。 調査ポッドに戻った4人は上昇の準備を進める。 「イツモは?」 「大丈夫だ」 「すぐに上昇するぞ」 ガウォークのVT-101とVT-102がゆっくりと進んでいく。 「どうだ輝くん」 「大丈夫そうです。先に行ってください」 「一緒に行くよ。さっきの二の舞はごめんだ」 「巨人って、本当に伯父さんたちは大丈夫なんでしょうか」 「大勢が降りているようではなかったので大丈夫かと」 「いてもエースのフォッカー先輩が守ってくれるって」 と輝が投げやりな回答をする。 突然ヴァネッサが報告する。 「地表から上昇する物体あり」 未沙が 「大橋少尉、迎撃を命じて。VT-102が遭遇した敵かも」 「スカル大隊、指示のポイントに敵の可能性あり可能であれば迎撃せよ」 空中で待機していたフォッカーが 「了解。スカル大隊、行くぞ」 とバルキリーが現場に向かう。 「青い風が上昇します。再度援護射撃を」 「わかった」 急にVT-101がVT-102を着弾跡へ誘導する。 「三池さん、なぜ」 「また軌道上から攻撃がありそうな気がするんだ。輝くんが遭遇した連中を援護するために。それで一度着弾したところには次はないというジンクスがあるといいなと」 と答えると、離れたところから上昇していく物体と、上空を通過していくバルキリーの編隊が確認できた。その直後に上空から閃光が降り注いでくる。VT-101とVT-102には直撃せず大きな影響がないことを確認してから 「マクロスへ急ごう」 と三池が機体を移動させる。 「上昇に追いつけん。対地ミサイルが届くようなら発射だ」 とフォッカーが指示をする。先頭3機のバルキリーから発射され上昇する調査ポッドに向かっていくが直撃せず近接で爆発する。 近接で爆発した対地ミサイルの影響で調査ポッドが小さく揺れる。そのタイミングでイツモの呼吸音がなくなる。3人が 「イツモ」 と叫ぶ。 「調査ポッドは順調に上昇しているようですな」 「はい。調査できた内容は確認できていませんが」 「全艦、調査ポッドとの合流ポイントへ向かう」 こずえが 「今回も軌道上からの攻撃です」 更にヴァネッサが 「敵艦隊が移動してます。上昇していく物体を回収するため合流しようとしているのではないかと」 と続ける。グローバルが 「バルキリー隊も含めて宇宙装備に変更してくれ。クローディアくん、艦の重力制御は」 「姿勢維持はなんとか。ゆっくりとであれば上昇できます」 「そうか。キムくん、フォールドシステムへのエネルギー供給は」 「システムへ供給ラインを接続することは可能ですが」 その会話を聞いてシャミーが 「フォールドシステムですか?」 と小さく声に出す。未沙が 「重力制御システム以上に分かっていないシステムですが」 「できることが少ない現状で選択肢の一つとして考えておくべきではないかね」 とグローバルの答えに、クローディアが渋い顔をする。 「まだ使うと決まった訳ではない、あくまでも準備だ。目標座標は月の裏側に設定しておいてくれ」 「迎撃に出たスカル大隊以外の各隊は宇宙用の準備作業を始めています」 と恭子の声に 「あとVT-101とVT-102ね」 と未沙が追加する。 30mほど浮上したマクロスにVT-101とVT-102が近づいていく 「改めて見るけど大きな船だなあ」 「巨人さんの船なんでしょ」 「全部の領域が巨人用と確認されたわけではないけど」 「そうなんですか」 「まだね。多くの人は巨人だけと思っているようだけど。展示されていたデストロイドも巨人に対抗すべく、あの大きさになっているんだ。そしてバルキリーもね。そこから波及していているからワークロイドも似たような大きさになったんだ」 「詳しいんですね」 「それなりには噂になっていなかった?早瀬中尉、右舷後方のどこから進入でしょうか」 「できれば左舷か前方にお願いしたいのですが」 「VT-102の損傷が激しく、リスクを避けたいのですが」 「了解しました」 「内部も大きいや」 と輝が呟く中、マクロス艦内をガウォークのまま移動する両機。いくつもの区画を通過したがその多くでメンテナンスがされていないようで騒然としている。 「ここが一番奥の区画らしい。センターブロックに隣接しているようだな」 と小さな区画に到着するとガウォークで区画のロック操作をした後、三池が降りてくる。VT-102もキャノピーを空けて、二人が降りようとするが三池が 「なるべくコクピットにいて」 と指示する。 「なぜですか」 というミンメイの質問に、三池がVT-102へ端末を接続して操作をしながら 「どうなるか不明だからバルキリーのコクピット内にいる方が安全だよ。そこなら宇宙空間に放り出されても大丈夫だからね」 「狭いんで少し身体を動かしてもいいですか」 「少しならね。この船は宇宙空間に行くかもしれない。そうなるといつ真空空間へ吸い込まれるかもしれない。そんなときでもコクピットにいれば大丈夫。それからこれを」 と言って三池がコクピットに小さな箱を投げる。 「これがあれば私の方から探すことができる、常に持っていてくれ。データは確認できた。輝くん、良くミンメイさんを守ったね」 と端末をVT-102から外し、VT-101に乗り込む。 「なるべくコクピットでシートベルトをしておくように」 と三池が通信で連絡すると、VT-101がロックを解除し別の区画へ移動しようとする。するとミンメイが心配そうに 「三池さん」 と声をかけるが、それには応答無く扉が閉まる。 「回収できたな」 「地表で交戦が発生し1名死亡です」 「で情報は」 「遠くからですが遠距離からの敵艦および飛行体の撮影と、いくつか不思議なサンプルを回収とのことです」 「すぐに現像しろ」 「はっ」 「早瀬中尉、巨人と遭遇した際の映像を送ります」 と三池が未沙へ輝が巨人と遭遇した映像を送信する。未沙はその映像をメインスクリーンに映す。グローバルが 「確かに巨人のようだな」 と呟き、ブリッジオペレータからは 「やだあ」 「本当に巨人だ」 など様々な感想があがる。いち早く未沙が 「艦長、どうなされますか」 「まずはこの映像を司令部へ。三池さんでしたか、協力感謝します。引き続き協力を」 「はい?」 「バルキリーも乗りこなせているし、艦の状況もすぐに把握された。詳細な確認をせずに士官というのは難しいが、艦長付の軍曹待遇ということで」 「ちょっと知っていただけなんですが」 「早瀬君、引き続き彼との連絡役を」 「回収物です」 ヨーグインが調査ポッドより自動販売機を持ってくる。 「なんだこれは」 「ずいぶんと奇妙な色が使われてますな」 とエキセドルが妙な部分を指摘する。 「投擲兵器かと思い発砲しましたが何も起きなかったとのことです」 「この大きさ、投擲兵器でないとなるとどのように使うのか検討もつきません」 「お前も知らぬか」 とブリタイが確認する。そして 「この艦には調査機器がない。基幹に戻ってから解析するしかあるまい」 「はい、司令」 「撮影したものは現像中です。至急持ってきます」 と言ってヨーグインがブリッジを出て行く VT-102の足下で輝が落ち込んでいる。ミンメイも 「これからどうなっちゃうのかしら。せっかくミス・マクロスになれたのに」 と呟く。輝が心なく 「大変だったね」 と返答する。ミンメイは不安そうな顔をして小さく息を吐く。そして 「みんな大丈夫かしら」 「先輩も調子の良いことを言って何もしてくれない。あいつも」 と小声で呟いた輝に 「三池さんのことを悪く言わないで、いろいろしてくれるし謝っていたじゃない」 「ごめん」 「輝は私を守ってくれたんでしょ。ジャケット貸してくれたり、Vサインして応援してくれたり。輝がここまで連れてきてくれなかったら私どうなっていたことか」 偶然の発砲だったとは言えない輝は 「うん」 と相づちをただ返す。 「三池さんに言われたよね、そろそろ機に戻ろ。まだ詳しい自己紹介をしてなかった。リン・ミンメイ、16歳です」 「一条輝。横須賀技術学院の3年で18歳」 「輝、二つ上なんだあ」 「そういえばミンメイ、学校は」 「家出して伯父さんのところに面倒みてもらってるの」 「家出?」 キムが 「軌道上からの攻撃がありませんね」 「様子を見ているのだろう」 とグローバルの言葉に、こずえが 「どうして」 「降下し上昇していった物体の援護が目的だったのでは。調査目的だったとか」 と未沙の見解を 「ありうることだな」 とグローバルが同意する。クローディアが 「やはり急上昇は」 「無理か」 するとシャミーが 「司令部より、『映像を確認。可能なら捕虜にせよ』とのことです」 「無茶を言ってくれる」 とグローバルの呻きのような言葉に重ねて、ヴァネッサが 「艦長、反応弾の影響が弱りました。どうもアームド2が攻撃を開始するようです」 「展開してますな」 「先程の結果を忘れているようだ」 「しかし伝説の反応弾を持っているとなると面倒なことに」 「そうだな火力を集中させて一気に撃破する」 宇宙服に着替えた三池がブリッジに報告する。 「宇宙服へ着替えました。バルキリーで出撃ですか」 「民間人を出撃させるわけにはいきません」 「早瀬君、少しいいかね。三池さん、早瀬中尉から聞きましたがシステム工学研究センターに所属とか」 「はい」 「現状艦内の制御が十分な状況とは言えません。艦内システムの確認をお願いします。早瀬君、彼に情報を」 二人がやりとりを始める。続けてグローバルがキムへ 「キムくん、フォールドシステムに反応炉を接続してくれ」 「艦長」 とクローディアが言うと、グローバルは 「様子見が終わったらどうなる。それを考えるとフォールドも選択肢にな」 「バルキリーはどうしましょうか」 と恭子がバルキリー隊の運用について確認する。 「マクロス艦上に展開して待機」 「了解」 するとヴァネッサが報告する 「アームド2が攻撃を受けています」 「軌道上の部隊は制圧したようですな」 「次は地表へ牽制攻撃をする。艦には当てるな。反応弾との関係が知りたい」 マクロス周辺で衝撃波が発生し艦が揺れる。こずえが 「軌道上からの攻撃です」 と報告するが、そのときにクローディアが 「フォールドシステムが反応しています。フォールドします」 二人が乗ったVT-102も衝撃で揺れる。二人が気を失うと同時にマクロスでフォールドが始まる。フォールドが始まると無重力状態となり、制御を失ったVT-102が区画内をゆっくりと移動する。偶然センターブロック側の壁が扉に変化し開く。そのときにマクロスが再度揺れVT-102は扉の内側に入っていく。入った区画の奥の壁にも開いた扉があり、奥の区画へとVT-102が進んでいく。VT-102が二つ扉を越えると、VT-102から外側の扉から内側の扉と両方の扉が閉まっていく。 ブリタイとエキセドルが南アタリア島付近での発光現象を見て 「フォールドだと、地表上の高重力圏内でか」 「ありえないことです」 「フォールド先を確認しろ」 と新たな事態に対応すべく情報収集を指示する。 フォールド中に、ブリッジの照明が落ちる。フォールドしてしばらくすると、ブリッジ内部の重力制御が回復するが、無重力から力がかかってブリッジ内で悲鳴が重なる。グローバルが 「みんな大丈夫か」 と声をかける。全員が 「はい」 と返事をし確認をしているうちブリッジの照明が戻り、ブリッジの機能が回復する。未沙が 「艦内の各セクションの確認を」 と言い各自確認を行う。グローバルが 「シャミーくん、司令部へ連絡」 こずえが 「艦長、艦の後方に大きな物体があります」 「詳細を確認」 「はい」 「艦長、何度も呼び出しましたが応答ありません」 「ここが月であればすぐに応答があるはずだろう。アポロ基地もか。ここは月の裏側ではないのか」 そのときこずえが 「基地施設のレイアウトから南アタリア島の一部のようです」 「宇宙空間に南アタリア島? 早瀬君、大橋君、バルキリーを出して確認だ。特にシェルターがあるかを至急でだ」 「了解」 艦内状況の確認とバルキリー隊の準備を進めていると、ヴァネッサが 「太陽の大きさから現在位置が推定されました」 「どこだ」 「土星軌道のやや外側かと」 「土星軌道?」 とグローバルが聞き返す。ヴァネッサが 「おそらく」 「だからフォールドなんて」 とクローディアが返す。キムが 「艦長、技師長からセンターブロックにあるフォールドシステムが消失したとの報告が」 「消失」 と驚くグローバル。そして 「そんなあ」 とブリッジに甲高い声が響く。
#03 家出 後書き Main Storyに戻る