妄想解釈 超時空要塞マクロス

#06 ミス・マクロス



恭子は騒動に巻き込まれて艦内にいた制御システム業者との打ち合わせを終え受付まで見送ると、軍の受付にはそぐわない衣装に気付く。無視をしようと決めブリッジへ戻ろうとすると、向こうから
「あの、三池さんと約束しているのですがどこにいるかご存じありませんか」
とチャイナドレスを着た少女が話しかけてきた。軍の人間ではないことが明らかなことから無視するわけにもいかず
「三池だけではわかりません」
冷たく答えるが、彼女は封緘された軍の封筒を差し出す。恭子は仕方なく開けると、中にはグローバル艦長からサイン入り
「リン・ミンメイさんを三池和史氏のところへ案内するように」
指示書が同封されていた。命令には逆らえないので、ブリッジへ連絡し三池の居場所を確認しミンメイを案内することを告げる。

受付から倉庫区画までの間、ミンメイと恭子は会話することなく進んでいく。目的の倉庫区画では、三池が一人で機器の調整を行っている。ミンメイが
「三池さん」
と声をかけると、三池が振り返り
「ご苦労様。しかし派手な衣装でとは言ったけど」
と笑みを浮かべながら答える。
「何をするんですか」
とミンメイが質問すると、三池が
「無重力トレーニングプログラムのテスト」
答えると、女性陣二人が
「無重力トレーニング」
声を揃える。三池が
「そう」
即答する。ミンメイの
「トレーニングが必要なんですか」
質問に
「艦外作業するときには無重力下での身のこなしが重要なのは先日の件で経験しているよね」
と三池が答える。恭子が不思議そうに
「それは軍人だけでいいのでは」
尋ねると
「誰が軍人になるかわからないし、誰が何の作業することになるかわからないし。何がきっかっけで艦内の重力制御が不能になるかもしれないし。多くの人に体験してもらうことに損はないよね。ここにあるのは軍の訓練設備で、同じものを民間ブロックにも設置する予定」
と三池が決定事項であることを伝える。不満そうな恭子の表情を見ながら
「体験や訓練ということだけでなく、娯楽の一つになればとね。0Gスポーツとして盛り上がってくれると」
ともう一つの意図を説明する。するとミンメイが
「デートスポットになりそうですよね」
「0Gラブとか宣伝に使えるなあ」
そして三池が
「それで民間施設の宣伝映像として、事前にミンメイさんに協力をと。ほぼ無重力な環境の経験あるでしょ、ミス・マクロスさん」
と続ける。ミンメイは
「またできるかなあ」
心配そうに言ったので、
「自然に身体を動かしてもらえばいいから」
と言って三池が無重力区画に入る。
「いくつかのターゲットがランダムに光るのでそれをタッチしていく遊びを用意しているので」
次々と光るターゲットをスムーズにタッチしていく。それを見たミンメイは
「すごいんだ」
素直に感心すると、三池は
「このぐらいできないと宇宙空間では役立たずだよ」
と言って無重力から戻ってくる。そして
「ではお手本を」
と恭子を誘う。恭子は
「私ですか」
と驚くが
「これに興味ありそうですし。宇宙に出た軍人さんの実力を見せてもらえると」


格闘技トレーニングで受け身をしていた輝に、戦技教官から
「一条、急ぎバルキリー格納庫へ行け」
声がかかる。軍人らしくなく輝は
「なんでまた急に」
と呟くと、戦技教官が
「命令だ、急いで行け」
すぐ命令に従わない輝を叱る。


バルキリー格納庫へ、チャイナドレスを着たミンメイが恭子と一緒に入ってくる。疲れた表情の恭子とは違い、ミンメイは明るく
「皆さん、リン・ミンメイです。よろしくお願いします」
大きな声で挨拶する。その挨拶に周囲が驚くが、ほぼすべての男たちは優しく微笑み返してくる。それを見て周囲を確認すると、一人だけ面識があったのでそちらへ寄っていき挨拶をする。
「お久しぶりです、早瀬中尉ですよね」

袋を持っていた未沙は
「すみません、今回軍に協力して頂けるとのことで、ありがとうございます」
と言うが
「三池さんからは何の用事か聞いていないのですが」
同行していた恭子が驚いたように
「聞いてないって、あの男は」
大きな声を出すが、未沙は冷静に
「統合軍への募集ポスター撮影をお願いしているのですが」
と答えるが、ミンメイは普段のような口調になって
「そうなんですか。どうしようかな」
と答える。それを聞いた恭子が
「貴女ねえ、軍からの依頼を協力しないって」
と大きな声を出すが、ミンメイは気にした様子もなく
「こちらは協力をお願いされている立場ですよね」
恭子より落ち着いた感じで返す。未沙は少し渋い顔をしながら
「そうですか」
とだけ答える。恭子はともかく、未沙が困っているような表情をしているのを見てミンメイが
「三池さんに確認します。で三池さんは終わったら、すぐに来るんでしょ」
尋ねるが、未沙も
「彼が立ち会えないとのことで急遽代わりをお願いされました。何があったのですか」
それにミンメイは笑みをうかべながら
「ちょっと遊びすぎたかな。なら、どうしようかな」
と明るく言う。その言い方に恭子が
「なんですって」
と怒りを込めた返事をすると
「軍を使うだけ使って協力しないなんて。それにチャイナドレスで軍に来るなんて非常識よ。男の注目を浴びようとして」
ミンメイも負けずに
「いいじゃないですか。さっきも褒めてもらったし。それにチャイナドレスで出前すると、評判になるんですよ。軍でもね。娘々の宣伝よ、せ・ん・で・ん」
笑いながら返す。それに恭子が
「衣装でしか話題にならない店じゃ、これから先はどうかしらね」
言い返す。
「伯父さんは何を作らせてもおいしいし、特にチャーハンは絶品よ」
「どうだか」
娘々を悪く言われたミンメイが自慢の料理をあげるが、恭子が短く切り返す。
「三池さんだって、おいしいと褒めてくれているもん。毎日チャーハン食べているし」
ミンメイが常連の名を出すが、それに未沙が反応して
「毎日チャーハンでは栄養が偏ります。何故毎日チャーハンを食べていると言うのか不思議だったのですが、貴女のせいね」
と二人の会話に割り込む。
「三池さんにはお世話になっているから娘々から届けることも多いんですよ」
「それにしても何故毎日チャーハンなんですか」
未沙が質問する。
「三池さん、いつも一番早くできるのをって言うからチャーハンなんです」
ミンメイの回答に未沙が
「それでは栄養が偏って健康に良くありません。彼しかできないことが多くあって、彼が倒れたらマクロスは大変なことになるんですよ」
と大きな声を出すと、会話に割り込むタイミングを失った恭子が
『早瀬中尉にしては珍しいこと』
小さく呟き二人の会話に関わらないようにする。
「要望に応えるのがプロですから」
「常識ってものがないのですか」
「三池さんが毎日何を食べているのかなんて知らないもん」
「貴女ねえ」
「そもそも三池さんって毎日忙しそうにしているけど、きちんと毎食食べているんですか」
「それは話題のすり替えです。毎日届けているならバランスぐらい考えるべきです。彼が大事なんでしょう」
とミンメイの呑気な言葉に未沙が強く言い返す。
「だって三池さん、ミンメイの前ではいつも忙しそうで食べる暇もなさそうだし」
「彼は各所の維持整備で呼ばれて移動して捕まえるのがいつも大変なんです。そうだ彼と何をしているんですか」
「歌のレッスンとかイベントの打ち合わせとか、ミスマクロスとしてお願いされることがいろいろあるんですよ。あれ、もしかして妬いています」
「何も説明しないから心配しているだけです。忙しいのにそこまでやって」
「やっぱり妬いているじゃないですか」
「心配しているだけです。部屋の中が汚くなっていく一方ですし」
「えっ、部屋の中に入っているんですか。いつも玄関までしか入れてくれないんだけど。もしかして恋人さん」
ミンメイが尋ねると、未沙は真っ赤になって
「違います」
と否定する。それを聞いたミンメイは面白くなそうに
「なんだ三池さんを狙っているだけか」
それを聞いた恭子が軽く笑う。未沙は恭子へ冷たい視線を送ってから
「任務の関係です。彼は制御システムのコントロールができる管理者用の住居なので、必要なときには部屋に入っています。なので普通の人は入れないようにお願いしています」
未沙が説明する。それを聞いたミンメイが
「知らなかった」
に対して恭子が
「早瀬中尉は良く行くんだし、一緒に住んだらどうですか。管理者用だから空き部屋もあるんでしょ。一緒に住んでいれば食事の管理に部屋の掃除もできますよ」
と彼女にしてはからかうように軽い感じで言う。それを聞いたミンメイが恭子に
「三池さんを狙っていないんだ」
「やり込められる生活はちょっと」
恭子は素直に相性の悪さを認める。恭子の言葉にすぐに言い返せなかった未沙が話題をすり替えるべく
「貴女もプロになるつもりなら依頼されている仕事に応じるべきだと思いますが」
ミンメイに詰め寄る。ミンメイは余裕たっぷりに
「どうしようかなあ」
答えていると、フォッカーが
「情けないなあ輝」
会話に参加できなかった輝の背中を押して参加してくる。輝が
「どうも、ミンメイ」
と声を出す。ミンメイが驚いたように
「輝。なんだ輝も関係するんだ。そうだ輝、訓練の方はどう」
尋ねると、輝は素直に
「いろんな人に細かいこと言われて大変だよ」
それを聞いたフォッカーが
「おまえなあ」
と呆れる。ミンメイが
「この方は」
尋ねると小さな声で
『あのときに話をしていた女好きの』
続けて普通の声で
「フォッカー先輩。ミス・マクロスでもミンメイを応援してくれたんだよ」
フォッカーを紹介する。
「三池さんからの話だし、輝もお世話になっているから引き受けるか」
ミンメイが答える。あまり状況を理解できていない輝は
「はは」
小さく笑う。そのときに恭子が
「訓練生ね、上官に対しては先に名乗るべきよ」
と言うと、既に輝と面識のある未沙が
「大橋少尉、こちらは一条輝さん。フォッカー少佐の後輩で優秀なパイロット候補生と聞いてます」
説明するが
「大橋少尉」
「一条輝」
二人が記憶を探ると
「あんときのおばさん」
「あのときの民間人」
とほぼ同時に思い当たる。

未沙から渡された軍の制服を着たミンメイがVF-1の前で敬礼などのポーズをしながら撮影を進めていく。直前に募集に応じた若い人ということで輝に意見を聞くことになる予定であったが、軽いノリでセクシーポーズを要求をしたカメラマンへ未沙と恭子が厳しい言葉を投げつけたので重い空気のまま撮影が進んで行く。そんな中でもカメラの前で表情を変えていくミンメイを眩しそうに輝は見つめ、ミスマクロスとして有名になっていく彼女との立場の違いに
「なんなんだよ」
苛立つ。
撮影は無事に終了し、サービスなのか格納庫にいたパイロットや整備員へセクシーなポーズをしたミンメイに盛り上がる。不満そうな顔をした輝は訓練に戻り、格納庫の盛り上がりについていけない恭子は呆れた表情でブリッジへ戻っていく。制服からチャイナドレスに着替えたミンメイを未沙が待っていた。未沙は不機嫌そうに
「三池さんからの依頼でイベント会場まで案内します」
先に進んでいく。ミンメイは小さく
『今日は不機嫌な顔をした女性と一緒になる日だなあ』
と呟く。

ブリッジに戻った恭子にクローディアが
「どうしたの? ご機嫌斜めじゃないの」
声をかけるが恭子は返事をしない。こずえがヴァネッサに
「何かあったんですかね」
と話しかけると恭子がこずえをにらみ付けるように見る。その様子を見たキムは小さく
『おお、こわ』
聞こえないぐらいに小さく呟く。ブリッジにグローバルが入ってくる。
「早瀬君は」
の問いにシャミーが
「早瀬中尉はミンメイさんを連れてイベント会場に向かったとのことです」
答える。グローバルが
「イベント会場?」
「三池さん主催のイベントのようです」
「それか。あのイベントか。では都合がいい、早瀬君にイベントの様子を確認するように連絡を入れてくれ」
「了解しました」
シャミーが連絡を始めるとグローバルは
「キムくん、KMRー0107の動画ファイルをメインスクリーンに再生してくれ」
キムが操作を始めるとメインスクリーンに、明るい音楽をバックにチャイナドレスを着たミンメイが無重力空間をゆっくりと移動したり壁を蹴って思わぬスピードで移動したりする。そして最後に0Gスポーツセンターという紹介が出て終わる。
それを見たヴァネッサが
「うまいものねえ」
ミンメイの動きに感心する。一方でクローディアが
「デートスポットにいいんじゃない。完成したらロイと行ってみようかな」
「いいですよね」
こずえが同意し、シャミーが
「私もデートで行こ」
大きな声で宣言するが、すぐさまキムが
「あんたとデートしてくれる物好きなんていないわよ」
それにシャミーが
「なによー」
と不満を漏らす。任務とは関係のない会話となっているのを気にせず、改めてグローバルが
「うまいものだ」
声が漏れる。それを聞いた恭子が
「経験しているんですよ多少はできるはずです」
グローバルが不思議そうに
「三池さんは映像編集の経験ともあるのかね」
恭子に尋ねる。


未沙とミンメイが到着したイベント会場では、割烹着姿の三池が二人を迎える。
「お疲れ様。二人でとは珍しいこと」
三池が労うと、未沙は
「何をしているんですか」
厳しい目をしながら問い詰める。気にした様子もなく
「マクロスでの食料事情がどう改善されたかをアピールしようと思ってね」
三池が答えるとミンメイが
「マクロスの食料事情って。伯父さんも配給がどうなるのか心配しているし」
「問題ありませんよとアピールするためのイベントだから。早く着替えて」
そう言ってシェフの衣装を渡してミンメイに着替えを促す。ミンメイが出ていって未沙と二人だけであることを確認してから
「未沙もイベントに参加するなら軍服というのは。軍の統制というのはイメージが良くないので」
三池が笑いながら言う。その表情を見て諦めたような感じで未沙が
「イベントはいつからですか」
「あと一時間ほどですが。イベントの許可はもらってありますよ」
「承知してます。私服に着替えてきます」
未沙が歩き出す。その背中に
「エプロン姿が似合う私服でお願いしますね」
と三池が明るく声をかける。

私服に着替えた未沙がイベント会場に戻ってくると、大勢の前でミンメイとMCのジョン・スミスが意味のないトークをしている。
「少し早いけど準備ができたのでイベントを始めますか。さて我らがマクロスのアイドル、ミンメイちゃん最近はどんな感じ」
「今は歌の勉強をしてます」
「そういえばミス・マクロスコンテストでも歌ってくれたけど、もっと上手くなったのかい」
「どうかな」
少し自信なさそうにミンメイが答える。意地悪そうな表情で進行を続けて
「ではトレーニング中のミンメイさんが歌います。曲は」
「最初は私の大好きな中森明菜さんの『サザン・ウィンド』」
ミンメイが答えるとイントロが流れる。
どうしたものかと思っていた未沙が、後ろから肩を叩かれる。未沙が振り返ると、変装した割烹着姿の三池が笑っている。
「似合ってますよ。歌の最中ですが、お嬢さんはこちらの方へ」
未沙をバックヤードへと案内する。
ミンメイの歌が流れるなか、バックヤードで三池は、未沙にカツラを渡す。未沙が不思議そうに
「これは」
尋ねる。
「変装用として、特徴的な色と髪型にしてみたのですが」
「だから、なぜ」
「人手が足りないんです。手伝ってくださいよ」
三池が依頼する。嫌そうな顔で
「それにしても」
未沙がカツラを見つめる。
「これだけ特徴的な髪型なら、髪型に意識が向いて早瀬中尉と気付く人はいないですよ。その方がこちらも都合がいいし。単に視察するだけでなく、協力してくださいよ。必要なら艦長の許可は取りますので」
という言葉に力なく未沙が
「協力します」
答える。すると三池は
「ではこれはおまけで」
とコンタクトレンズケースを差し出す。

ミンメイが歌い終えると、それなりの盛り上がりで拍手が返ってくる。
「上手くなったねえ、ミンメイちゃん。そうだお腹減ってない?」
あまり気持ちのこもっていない言葉から台本を進行していく。ミンメイは
「そうなのお腹ぺこぺこ。今はお刺身を食べたい気分」
と台本通りにではあるが自然な流れのように答える。
「スシもいいよね。そんなミンメイちゃんに残念なお知らせだ。これが島の冷凍倉庫にある最後のマグロだ」
そこへ変装した三池がマグロと登場する。そして目の前でマグロをさばいていく。急な展開に驚いている場内から
『おい』とか『不公平じゃないのか』
と声があがる。その驚きが全体に広がる前に、三池がほぼ切り分けを終える。それを見て
「最後のマグロです。小さくして皆で食べましょう。最初はミンメイちゃん」
小さな一切れがミンメイに渡され、ミンメイが食べる。
「おいしいんだけど、大きさがね」
正直に答える。すると
「ではミンメイちゃん、手を洗ってマグロを切り分けるんだ。それを食べてもらおう」
台本の通りに進め、ミンメイについたアシスタントが一式を持ってきて切り分けのサポートを行う。ミンメイが刺身へそれなりの手際で切り分け始めると、一度バックヤードに戻った三池が3本のマグロを持ってくる。新たなマグロの登場に大きな声があがる。切り分けながら
「私よりも人気あるかも。さっきのが最後のマグロじゃなかった?」
ミンメイが質問すると
「これは最新宇宙技術によるマクロス産マグロだよ」
ここだけは熱を込めて台本を進行する。そして会場に
「今日はマグロの試食会だ。なんでもマグロ以外に牛、豚、鳥、野菜とマクロス産があるそうだ」
このイベントで一番大事な内容を伝える。マグロをさばいている三池の後ろで、未沙が
「マクロス産ねえ。誰が何をしたのやら」
誰かに聞こえるように言う。
「お嬢さん、渡す係として前に行きますか、それとも私の近くで切り分けしますか」
変装のこともあって前に出たくない未沙は
「貴方の後ろで切り分けます」
刺身に切り分け作業を開始する。その手際を見た三池が
「お見事」
「今の貴方に言われても自慢にはなりません。そもそもお店の人の手を借りられなかったんですか」
「このイベント後に各店フル営業してもらうんでその準備があるんで。助かりました」
そして二人で作業をしていく。その二人と少し離れているところにいるミンメイが
『あの二人付き合っているんじゃん』
と小さく呟く。


遅い時間まで訓練していた輝が一日の終わりにコーラを買って近道していると女性の悲鳴が聞こえる。そちらへ行くと恭子が空中に浮かんでいる。それを見た輝は不思議そうな顔をするが恭子の
「重力制御でここだけ無重力なの」
その言葉で理解した輝が大回りをして勢いをつけて途中で恭子を抱えて重力制御されたゾーンに戻ってくる。
「機械の制御はできないから、こんな方法だけど」
輝の言葉が耳に入っていないようで恭子は
「何にもできないなんて」
と呟く。そんな恭子に輝が怒ったように強い口調で
「助けたのに礼もないのかよ」
を聞いた恭子が彼女にしては素直に
「ごめんなさい、ありがとう」
輝へ頭を下げるが、すぐにいつもの恭子に戻って
「経験者や訓練生はまだしも、素人のミンメイ以下だなんて」
悪態をつく。
「おたく、もしかして無重力で動けないとか」
「貴方ねえ」
「時間外まで上官ですよとえばられても。少尉殿は得意じゃないんですね。ミンメイはすぐにできるようになったんだけどなあ」
調子にのった輝がからかうように言う。恭子は
「あの子ができるのは見たわよ。なんであんたが。そうか一緒に閉じこめられていたんだっけ」
と落ち込む。気にせず輝が
「閉じこめていたときに三池さんが重力制御を弱くしたとかで、暇でミンメイに身体の使い方の説明をして遊んでたんだ」
「あんたがトレーニングしたってことね。なら私にも教えなさい」
恭子が迫ってくる。恭子の顔が寄ってくるが女性の顔を近くで見るのに慣れていない輝は
「機械の制御なんてできないから、無重力のトレーニングなんて無理だよ」
少し顔を赤くしながら答える。すると近くから
「無重力のトレーニング」


マクロスを見ながら三池が
「無重力での身体の使い方をトレーニングしたいとは結構なことで」
それに答えて輝に支えられていた恭子が
「宇宙服に着替えて船外に出るなんて」
と心配そうに言うが
「許可はもらっているから大丈夫。ですよね早瀬中尉」
未沙に言う。そして
「大橋少尉は初心者のようだから、早瀬中尉は輝くんとペアを組んでもらいましょうか」
恭子が
「早瀬中尉に迷惑かける訳にはいきませんので、計画されていたようにお二人でどうぞ」
と答える。すると三池が周囲を見ると
「少し待って」
飛んで装備品ラックに向かう。そして凹んだ区画の上に持ってきたシートを被せる。
「外は見えなくなるけど、この中で練習してもらえれば飛び出すようなことはないから安全なので」

未沙が
「忙しいのにこんなことをして」
「やることが多すぎるから私の息抜きと思ってもらえると。約束したような記憶もあるし。始めますよ」
三池が呑気なことを言う。未沙が
「和史、一つ聞いていい。あのマグロって」
「閉鎖区画にあったクローニング装置でクローンしたマグロですよ」
悩まず回答する。
「それって大丈夫なの」
未沙が確認すると、三池は
「移民線で食料を確保するために建造者が用意していたんだから大丈夫でしょ。我々の前の文明人ということしか分からないから、プロトカルチャーと呼ぶべきかな、プロトカルチャーの人々だって食べるだろうし」
それを疑問に思った未沙が
「クローンの弊害ってないの」
「区画を見ると繁殖設備があるから、クローンする個体が固定されないように考えていたみたいだけど、我々には育てる個体がないから地球まではあるものをクローンしていかないと」
三池は躊躇せずに答えるが、未沙は心配そうに
「健康被害の心配はないの」
「わかりませんよ。確認している余裕はないし、食べないわけにはいかないし。まっ地球までのそう長くない時間だから大丈夫でしょ」
「でも」
「未沙は優秀ですね。軍のお偉いさんにクローンを食料にすると話をしても気にしていなかったですよ。たぶん簡単に食料が得られる良かったとしか思っていないんでしょうね。そんな現状ですからね、宇宙移民するなんて今の人類には夢として語ることさえ許されていないのかもしれません。偶然にも方法があるんだから、生きるために今できることをしないと。ここまでの話は未沙が質問したから答えましたけど、忘れてください。一人で実行すると決めたことです、一人ですべてを背負いますよ」
すぐに
「背負うと言っても何ができるわけでもないですけどね」
と軽い感じで続ける。

「三池さんに教わる方が早く上達するのに」
練習に付き合っている輝が不満そうに言う。
「彼とは相性が悪いのよ。それに上官の邪魔をするのもね」
恭子が言うが"邪魔"の意味に気付かず輝は
「ふーん」
気のない返事をする。練習を続けていると突然輝が
「そういえば俺を使うのはいいのかよ」
不満を口にする。恭子は笑いながら
「そうね。確かにそうね。でも段取りを整えたのは私でなく彼よ。文句があるなら彼に言って」
普段とは違う対応をする。違和感を感じながらも輝が
「三池さんに世話になっているから、頼まれたら断れないって。このマクロスに世話になっていない人っているのかよ」

「そういえばどうして統合宇宙軍を。10年前の事件で評判よくないのに。もっと出世コースがあったでしょ」
三池が質問する。未沙は
「その10年前の事件があったからね。噂では落下物が地球への直撃コースを急に避けて爆発したんでしょ」
「そういう噂は確かに。提督ならご存じなのでは。グローバル艦長もか」
「二人とも何も語らないわ。特にこの件については。なので軍に入ったけど、何も分からなくて。地球付近で大規模な爆発があったという公式発表はあったでしょ。その爆発に知り合いが関係していたんじゃないかと」
「死亡した関係者は主にプロメテウス基地の人間だったから、そちらに勤務していた人?」
少し重い口調で三池が尋ねる。
「知っているの」
「まあ政府側の人間なんで多少は。多少でも語れないことばかりだけど」
「真相が知りたいという思いがあったから軍に入ったけど、政府に行けば良かったのかしら。憧れていた人がプロメテウス基地に勤務していたの」
「もしかして初恋?」
「たぶん」
「デートしたとか」
「彼が赴任前に二人で食事しただけよ。25歳と14歳だったから、年の離れた妹のように見えていたかも疑問だわ。ただ」
「ただ?」
「そのときはとてもドキドキして楽しかった。もう10年になるのね、ライバー」
と未沙が想い出の名を呟くが、三池は何も言わない。

「そういえばなんで無重力トレーニングを」
輝が何気なく質問する。
「宇宙に憧れがあるだという理由では駄目?」
恭子が答える。輝が
「無理には聞かないけど」
「教わっているから説明する義務があるかな。10年前に地球近辺で大爆発があったの覚えている?」
恭子にしては素直に話を続ける
「小さい頃だったけどさすがに覚えている」
「小さいって、そうかそのときには10歳にもなっていないのか」
と恭子が年齢差を気にするような発言をする。
「そうだよ。で」
輝が先をうながす。恭子は
「プロメテウス基地に伯父が勤務していてね、自慢の伯父だったの。宇宙開拓をするんだって良く言ってたわ」
「それで」
「あの大爆発の後に死亡通知が来たの。大爆発に何か巻き込まれたんじゃないかと。だから私が宇宙開拓の意志を引き継ごうと」
「ふーん」
「まだ民間では宇宙開拓に貢献できそうないから、評判は悪いけど統合宇宙軍を志望したの。でも宇宙遊泳もできないんじゃね」
恭子が語る。その様子を見た輝はいつものように反発するのではなく
「今日が初めてなんだろ。これから練習すればいいんだって」
これまでよりも優しい返事をする。すると恭子が
「次も付き合ってくれる?」
と返すと
「俺じゃ外に出られないよ。三池さんに頼んでよ」
輝が言う。
「彼とは相性が悪いって言ったでしょ。彼に頼んで事情を知っている誰かを借りるかな」
と笑いながら恭子が答えると、輝が不満そうに
「ちぇえ」

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