妄想解釈 超時空要塞マクロス

番外 #02 オペレータと或る男の平日



町崎健一の日常は優雅に始まる。人よりもゆっくりと起き、用意されている食事を時間をかけて食べ、公園で散策をし、ベンチに座って身を委ねる。
しかし町崎健一は怒っていた。どのくらい怒っていたかというと、無意識にその怒りが声として漏れてしまうぐらいに。
「あいつら俺が仕事していないと非難しやがって。仕事していなくたって飯ぐらい食わせろ」
と彼にとっては当然の、他の人にとっては理不尽ともいうべき内容で怒っている。その異常さに彼が座っているベンチの周囲から人がいなくなる。そのことに気付くことなく復讐すべき相手のリストを作成する。人だけでなく、幼い頃に近所で飼われていたペット、果ては自動販売機までと長いリストを作成していたので、怪しい町崎を知らない新たな人々が公園にやってきたようだ。

「ラッキー、ベンチが空いてますよ」
と特徴ある高い声がしたので町崎が声の方を見ると、いくつもの原色を組み合わせたハイセンスなファッションをした髪の長い北欧系の幼い子が近くのベンチを指し示している。センスのいいTシャツにショートパンツを組み合わせたアジア系のショートカットの子がその外見に似合った話し方で
「あんたねえ、公園で大声出すんじゃないの」
たしなめる。胸元が大きく開いたブラウスとロングパンツをぴったりと着こなした眼鏡のフランス系女性が
「そうね、せっかくの公園なんだから優雅に過ごしましょ」
と落ち着いた感じで続ける。レースがいっぱい付いたワンピースを着た近所にいれば評判となりそうな普通に可愛い子が
「みんなで座りましょ」
とボーイッシュな子にきつく言われてめげている北欧系の女の子の手を取り座る。ゆったりとしたジャケットにブラウス、スカートを着た日本美人が見とれるぐらいの所作で座り
「みんなで座れてよかったわね」
と微笑む。しかし不満そうに
「大勢で公園って」
と楽しくなそうに普通のブラウスとタイトなショートスカートを着た冷たい感じの美人が呟く。それをモノトーンでタイトなワンピースを着たスタイル抜群な黒人女性が
「珍しく一緒に時間が空いたんだからいいんじゃない」
となだめる。

町崎はその7人から誰を選ぶか考えて、日本人なら日本人らしい二人のどっちかだなと。まあ普通に可愛い子も悪くはないが、年上らしいが所作がきれいな彼女が一番だなと結論付ける。
しかし厳しい鑑定眼をもって”美の守護者”を自任している町崎健一にとってもそう見ることのない7人であった。身長やスタイルも含めて差を付けることは可能なものの、明確な優劣ではなく各人の好みで一番が決まるというぐらいのレベルで7人が揃っている。
進宙式に派遣されたコンパニオンかなと思っていると、町崎健一の苦い過去が呼び起こされる。
「進宙式のコンパニオンと言えば、俺がした質問に適当な返答をしやがって。あいつら何も知らないのか、それともただの役立たずか。明らかにやる気ないだろ。それにこの7人よりレベルは下だったぞ」
と明らかにコンパニオンが相手を見て常識な対応をしたと思われることに不満を呟く。幸いにもというべきか7人のところまでその声は届かなかったようで、楽しげに会話をしている。
町崎が気を取り直してその会話に聞き耳をたてると
「そうそうマックスくんだっけ、可愛いし格好いいよね」
と北欧系の子の言葉に
「今回の新入りの中では一番かな」
とショートカットの子が続ける。普通に可愛い子も
「実技も優秀らしいですし」
「まだまだよ」
と先程不満を言っていた冷たい感じの美人が一刀両断の評価をし
「そもそもあの一条が隊長なのよ。使えるようになるのやら。世も末だわ」
と更に別の人間にも不満を述べる。それを聞いた黒人女性が
「あら、ロイはみんな優秀でいい子って言ってたわよ」
「いい子って、あんな無礼な一条が」
と目尻を上げて更に不満を述べる。どうやら個人的な恨みがあるようだ。おばさんとか相当失礼なことを言われたのだろうか。眼鏡をかけたフランス女性が
「でも艦内からの募集ですから、どうやっても人数も質も厳しいですよね」
とマクロス艦内にしか人がいないことによる厳しさを語る。

それを聞きながら町崎は
『そうだ。そんな厳しい状況なのに何故俺を使わない。一度システムのクラッキングに失敗してシステム全部消去してしまったが、システムに精通した優秀なこの俺を』
というが、マクロスという閉じた空間でどんなシステムを消去したのか、そしてどんな影響が出たのかを考えると不安になる。
『俺がビデオ監視システムをきれいに消去したおかげで記録に残らず、捕まらないぐらいに優秀なんだぞ』
そもそもどこが優秀なのか、そして何故ビデオ監視システムをターゲットにしたのか。女性のあらぬ姿でも見ようとしたのではないだろうか。おそらくそうに違いない。大丈夫かマクロスは。

町崎は大きく伸びをしてベンチの背もたれに体重をかけるがその力で背もたれから後ろに倒れ、町崎は後ろに転がり、転がり続けて小さな池へ落ちる。池とは言っているが水たまりともいうべきレベルなので浅く、町崎は大した怪我もなく濡れただけだった。ただ情けなくなった町崎は泣き出す。

泣き声を聞いたのか所作の見事な日本美人が席を立って池の方へ向かっていく。他の6人も不思議そうに追っていく。日本美人は町崎へ寄っていきバッグから何かを探しているようだ。そのうちに他の6人も追いつき、何をするのか注目しているとハンカチを見つけて取り出す。彼女はハンカチを見て少し躊躇したような表情を見せるが、それでも泣きやまない町崎へハンカチを差し出し
「男の人が泣いては駄目ですよ。良かったらこれ使ってください」
と言う。それを見ていた北欧系の子が
「こんな泣いている奴には投げて渡せばいいんですよ」
と冷たく言い、それにショートカットの子が
「そうそう」
と同意する。冷たそうな美人が
「泣くなんて男のクズ。渡す価値もない」
と言い捨てる。町崎が受け取れずにいると、ハンカチを差し出していた彼女は
「さあ手を出して使って」
と受け取るように言う。町崎は泣きながらもゆっくりとハンカチを受け取る。それを見ていた普通に可愛い子が
「なるほどこういうことをすると、男の人って感動して陰で泣いちゃうんですね」
と感心していると眼鏡をかけたフランス女性が
「まあ指示でも男を泣かせてるけどね」
といたずらっぽく笑う。その言葉が何故面白かったのか町崎には分からなかったが女性陣は全員笑い出す。そんな中、恥ずかしくなった町崎は走り去って行く。

町崎はハンカチを握りしめながら
「クソ女どもが」
と罵りながる走る。しかし止まって、Mと刺繍の入ったハンカチを見ながら
「女神様」
とうっとりとした表情を浮かべたかと思うと、「えへえへ」と気持ち悪く笑いながらハンカチを頬ずりし始める。

クローディアが
「しかし未沙、お互いに名乗っていないからハンカチ返ってこないわよ」
というと未沙は困ったような表情をして、彼女にしては珍しくすぐに返事をしない。ヴァネッサが
「そういえばハンカチを差し出す前に躊躇してませんでしたか」
と尋ねる。そう言われた未沙は慌てて
「大したことじゃないのよ」
と言いつくろうが、キムが
「怪しいなあ、本当はあの男に渡すのが嫌だったでは」
と自分の気持ちをストレートに声にする。恭子も
「あんなクズには必要なかったわよ」
と同意する。突然ひらめいたようにこずえが
「大切な人からのプレゼントだったんじゃ」
と大きな声を出すと、未沙は顔を赤くして
「本当に大したことないのよ」
と言うが、クローディアが
「未沙と同室だった時にはあのハンカチを見たこと無かったわ。男からのプレゼントはすべて返却しているし。未沙が最近プレゼントを受け取りそうな相手と言えば、三池君」
と言うと未沙は黙って下を向く。それを見たシャミーが落胆したように
「ショックだあ、早瀬中尉が」
と呟く。



三池のオペレータ養成講座を受講していた真島香奈がブリッジに届け物ですと言って入ってくる。
「香奈ちゃん、お疲れ」
とシャミーが声をかける。それを恭子が
「私語は厳禁」
と注意するが
「いいんじゃない、艦長も未沙もいないし、引き継ぎの準備も完了したんだし」
とクローディアが気楽に言う。ヴァネッサが笑いながら
「私語は問題だけど情報交換ということならいいんじゃない」
と内容によっては会話もいいんじゃないのという空気を作る。
「香奈ちゃん、なんか面白い話ない」
とこずえがリクエストすると、香奈は
「面白いというより珍しいなんですけど、任務に絡んでいればいいんですよね」
と返す。キムが
「いいねえ」
と言い、恭子が
「任務に関係があるのよね」
と厳しい感じで言う。香奈は臆することなく頷いてから
「昨日あった面接での出来事です」
と始めると、話好きな女性陣は次を促す空気を出す。
「三池さんが面接したんですけど、『君にも感想を言ってほしい』ということで私も参加してたんです。その中に町崎という小太りで眼鏡をかけた冴えなくて怪しい男がいたんです。そいつ話が適当で『俺はシステムに精通している』『できる男に仕事がないのはおかしい』とか言うんですよ。異星人のシステムを一人でコントロールできるように整備して、一番忙しい三池さんの前でですよ。三池さん、ずっと聞いていたんだけど『で何をしたいんだい』と質問したらおかしなことを答えたの『女神様を探す。マクロス艦内にあるビデオをすべてチェックすれば見つけられる』って。さすがの三池さんも表情が険しくなったんだけど、そのバカは気にせずに汗まみれの顔を拭くためか似合わないおしゃれなハンカチを出しながら『マクロスのビデオ監視システムぐらいなら簡単に制御できますよ。そうだ以前、ビデオ監視システムが止まって大騒ぎになったんじゃないんですか』と調子に乗って言うんですよ。でもそんなことなかったじゃないですか、おかしいなあと思っていたら三池さんが冷たく『採用、こんな状況だから生活はできるようにするから詳細な条件は任せてもらうよ』と言って書類を作成して、バカに書類を提示したのよ。三池さんってできる人だから即断即決も多いけど、人の意見は聞くじゃないですか。特に今回は感想を求めていたのになあと思っていたら『ごめん、今回だけは許して』ってバカには聞こえないぐらいの声だけど優しく言ってくれたんです。珍しいですよね」
と香奈が一息つくために一度話を止める。シャミーが
「何それ」
と言い、キムも
「ちょっと、そんな危険な男に任せて大丈夫なの、私たちのプライバシーは」
と言う。でも香奈は話を再開して
「バカが『もっと豪華な生活したいな。でも女神様のために我慢するか』って言ってサインしたんですよ。サインしたら、三池さんが『これからよろしく。センターブロックのビデオ監視システムだけど、ダミーを用意してある。生活している人のプライバシー保護のためにね。興味本位なのか自分の性癖を満たすためなのか何人かアクセスしてきたけど、誰一人としてダミーだということにさえ気付いていなかったようだ。だが一人だけシステムの基本も知らずにアクセスして、システムを壊そうとした奴がいる。システムを保護するためにオールリセットする仕組みになっていたため、その輩に関する情報も消えたんだ。でも良かったよ、名乗り出てくれて』と言ってにっこりと笑ったんですよ」
と香奈は再度一息つくために話を止める。恭子が呆れたように
「本当にバカで、性根が腐ってるクズね」
と言う。香奈は
「大橋少尉にそう思ってもらって良かったです。はい、そのクズの資料です」
と言って資料を渡す。恭子が
「何」
と怪訝そうな表情をする。冷静に香奈が
「三池さんからの伝言です。大橋少尉に徹底的に厳しい教育をするよう、よろしくお願いしますと。事前にグローバル艦長の許可ももらっています」
と決定事項を伝える。



ということで町崎は、パイロットに”ピンヒールの女王様”、”涙のない吸血鬼”と恐れられる方から強烈すぎる指導を受けて鍛え直されることになりました。多少はまともになったようです。多少じゃないや、少しだけだ。
町崎健一は、仕事では”氷の女王”、”鬼より怖い首席殿”と恐れられる”女神様”とは何故か出会うことはなかったそうです。その原因は、ハンカチを大切に持っているためというのは一人しか知らないことです。そりゃそうだよね、あんな不審者が”女神様”と呼んでいるのを知ってたらね。
ちなみにハンカチの話をしたら
「ごめんなさい、泣いている子供に渡してしまったの」
と明らかに嘘と分かる答えだったそうです。それを聞いて、可愛いと思って抱きしめたいという感情と、男でトラブルにならないのかと心配する感情が混じって、それならいっそのこと・・・という思いになったようです。必死に理性で我慢したようですが。

番外 #02 オペレータと或る男の平日 後書き

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