ふと時計を見ると、作業を始めてから24時間になろうとしていることに気付く。短い休憩を入れながらとはいえ、さすがに疲労を感じてくる。結果として放置してしまった二人、それ以外の多くの人達のためにも、この先に空間があることに期待して見えない扉を開けると改めて決意する。軽くのびをすると、規則正しく小さな寝息が聞こえる。おそらく進宙式の準備やその後の異常事態への対処により、肉体的にだけでなく精神的にも激しく疲労しているようでスキンタイトな宇宙服も脱がずにここの床の上で寝ている。疲れているのは誰の目にも分かるような状態だったのに、「自分は連絡役だから先に休めない」と頑なに休憩を拒んでいたが3時間前ほどから寝息を立てている。寝息があまりにも規則正しいので、生真面目そうな彼女らしいと勝手に納得してしまう。ほぼ同じ歳らしいのに、堅い表情を崩さない任務中の姿とは異なって小さな寝息と窮屈そうにしている寝姿が可愛らしく思えてくる。そんな可愛い彼女をついつい見てしまう。もちろん若い女性の寝姿を見るのはどうかと思うが、そんなことを思う自分自身に驚く。 小さな呼び出し音を発してモニターに黒人の女性が映り 「未沙」 と呼びかけるが、それに対してモニターへ向かって揃えた指を上から下へと動かしながら 「お休みになられてます」 と答える。近くにあったイヤホンを耳にあてて、モードを切り替えてから 「どうぞと」 に小さな声で女性に次を促す。すると 「さすがに疲れて休んだのね」 と彼女のことを聞く。 「はい。連絡役として先に休めないと何度も繰り返してましたけどね。今は規則正しく可愛らしい寝息ですよ。小さい音だから聞こえないか」 と言ってサブカメラを寝ている彼女に向け、それをウィンドウ表示させる。そして 「どうやら珍しい様子のようですね。録画します?」 と了承されるとは思えないことを提案してみる。だがモニターの女性は 「それはいいかもね。しかし可愛い寝息って、貴方」 と思ってもない返答をする。寝ている彼女へ視線を一度向けてから 「ちらちらと見ている気持ちの悪い男ですから」 と意地悪く笑って返す。するとモニターの女性は 「今、何をして欲しい?」 と唐突なことを言い出す。それには素直に 「休みたいですね」 「そうではなくて人にしてもらいたいことをよ」 「であれば自分のために料理してもらうですかね。突然宇宙に放り出されたんで、贅沢なことだとは思いますが」 「ふーん。罰ゲームにはちょうどいいかもね」 「はい?」 またまた唐突な言葉に間抜けな返しをした。 「で?」 と何が”で?”なのか分からず、とりあえず現況を報告する。 「制御システムの反応パターンは整理できました。いろいろなパターンを準備しているところです。準備をシステムに任せられるようになったら1時間ほど休めるかなと」 「そうなの。で?」 と再度の問いにどう答えるのが正解か分からず待っていると 「未沙のことどう思う?」 「容姿端麗、スタイルもお見事で」 「あんな服を着ているのに?」 彼女を再びちらっと見てから 「柔らな曲線じゃないですか」 と答えると、モニターの女性も寝ている彼女を一度見てから 「そうね。実際に出るところは出ていて、それでいて見事にくびれているわよ。宇宙服を脱がせて確認してみる?」 気持ちの悪い男としてもどう答えるべきか悩む状況となったので黙っていると 「未沙ね、士官学校も首席で、戦術学校でも首席だったのよ」 「とても優秀なんですね。だとすると二人っきりというのは大勢から恨まれそうだな」 「そうかもね。でも大丈夫よ、未沙は誰とも付き合ってことないから」 「は?」 「優秀すぎるのも困ったものね。感情を簡単に閉じ込めてしまうし、男を馬鹿なものとして扱ってしまうし」 当たり前というべきことにだけ同意をすべく 「まあ男が馬鹿なのは当然のことだと思いますが」 「そうねロイなんて本当に馬鹿としか表現するしかないものね。一人では何も出来ないんだから」 「でも意外だなあ。本当の馬鹿がしつこく言い寄り続けたら、根負けして付き合うとかありそうな気がするんですが。特に遠目からだときらきらと光る精巧な彫像のようですから、チャレンジする馬鹿も多くないですか」 「近くに来ても仕事のことしか関わらないし、冷たく対応しているから」 「冷たくですか。まるで氷の彫像だな。遠目からはきらきら光り、寄ると寒くなる」 「確かに」 「でも氷の彫像は失礼かな。男どもに指示するから、氷の女王様かな。でも今の姿はねえ」 とモニターの女性は彼女を見てから小さく笑った。そして 「何」 「仕草がしっかりとしているから、教養のある人が愛情たっぷりにそして丁寧に育てられたのではないですかね。それだから愛情に応えようと、無理をしても期待に応えられるよう努力し続けている。でも愛情を欲しがっているのに、仕事優先と言って無理に押さえ込んでいる」 後半の言葉で、なぜ彼女の寝姿を可愛いと思ったかの理由を自覚する。 「ふーん、それが貴方の評価ね。でも貴方のことは褒めていたわよ。システムにとても詳しいだけでなく、情報分析も見事だし判断も早いと」 「思ってもみない高評価だ」 「で、3月3日にプレゼントを用意して」 「この状況でですか?」 「そう。合格したら罰ゲームをしてもらうから」 「は?誰がですか」 「いいから。で、わからない?」 ようやく3月3日がどんな日か思い出す。 「日本では3月3日は女性のイベントですけど、よくご存じで。しかしこの状況で雛祭りにちなんだものを用意するとなると」 とぼやく。 「そうだったわね。でも違うの。その日に別の意味がある子がいるのよ」 しばらく考えて、この女性も含んで会話した内容を思い出しプレゼントする相手とその意味に気付く。 「容姿端麗な方はまだ23でしたっけ」 と”まだ”の部分を強調する。 「そうそう」 会話をしているうちに作業していたパターン構築用プログラムが完成する。 「プレゼントの相談をすべきなんでしょうけど、1時間ほど休ませてもらえないでしょうか」 「そうね、少し休むといいわ」 「心配しないのですか」 「何を」 「宇宙服を脱がしたりするとか」 するとモニターの女性は笑いながら 「大丈夫だと本能的に感じたからそこで寝ているんでしょ。それにやる気になっていれば、もう脱がしているでしょ。大丈夫よ、貴方いい人だし」 返答が思い浮かばず苦笑してから 「では休みます。1時間後にアラームを鳴らすと起きてしまいますかね」 と意地悪な提案をしてみる。 「いいんじゃない。私も未沙が驚くところが見てみたいわ」 「では1時間後に」 「お休み」 苦労の末、扉を開けることができた。一枚開けると明らかな痕跡があり反対側に挑む。経験が活きて次の扉もなんなく開ることができた。開いた扉の先には消えてしまった二人がいた。二人の無事に安心したのだが、奇妙な違和感を感じる。入ることのできた区画も巨人用だと思うのだが、入ってきた側の壁は巨人サイズで区切られているのに対して、反対側の壁は我々のサイズで区切られているように思える。彼女と初めて出会った進宙式で話したことを思い出し、彼女へ 「どうです」 と自信たっぷりに嫌な感じが出るように言ってみる。彼女は 「やっぱり貴方の推測が正しいのかも」 と笑って答える。なぜ弱い根拠の可能性に彼女が協力してくれたのか不思議だったのだが、彼女にしか感じられない何かを感じ取ったのだろうか。もしかすると彼女は氷に閉ざされた世界の住人ではなく、穏やかで暖かい世界の住人なのかもしれないと勝手に思ってしまう。となるとその期待に応えるのがここでの仕事なのかと思い、向かいにも扉があることを信じて作業を始める。 「サイズ的にまだ奥がありそうですからね。期待できるかも」 と輝くんとミンメイさんが 「何が」 と尋ねるが黙って壁にある端子への接続作業を続ける。代わりに彼女が 「次の扉よ」 と答える。続けて 「全体の大きさからすると、この先にかなりの空間が広がっているんじゃないかと考えているの。これまでの扉もエアロックのようだし」 ミンメイさんが 「みんな大丈夫なんですか」 という質問に、彼女が言葉を失う。そこで 「事故で宇宙空間へ島ごと出てしまったんだ。それで二人を捜索するついでに避難できる場所を探しているんだ」 ここでは軍を代表している彼女には説明しにくいことなので代わりに言う。予想されたように輝くんが 「それって、なんなんですか」 と、ミンメイさんは 「伯父さん、伯母さん」 と呟く。そこで 「ミンメイさん、伯父さんと伯母さんの名前を教えて。シェルターに避難してここにいる人達の名簿があるから確認できるよ。中尉、名簿へ二人を追加をしてください。そのときに検索もお願いします」 彼女が自身の端末を操作し、二人へいろいろと確認する。これまでとはシステムが異なるようで苦戦していることを知られるのを避けられたと安堵する。安堵すると同時に、誰に何でと疑問を抱く。ミンメイさんから歓喜の声が上がる中、複雑度を増していた上に別の制御システムだったが、基本として大差はなかったので扉を開けることができた。その扉は巨人サイズのものではなく。地球人類サイズのものであった。驚きの声が上がる中、これまでと同様にリモート操作をできる端末を端子に接続する。そして 「ここまで問題ないから空気は大丈夫でしょう。私が入ります。みんなはここで待っていてください。中尉、しばらくしても反応なかったらどう対応するかは分かりますよね」 「待って。もうすぐで部隊が来るわ」 「一刻を争っているような状況ですよ」 「情報を整理して送っているからもう少し待って。もう大丈夫、先へ行けます」 「行けますって。今度は別の制御システムのようです。入っても保証はありません」 「そうだったの。それでもこの時間で開けられるって、どれだけ優秀なの」 「その優秀なエンジニアが怪しいと感じているんです。今度こそ閉じ込められる可能性も高いです」 と強い警告口調で返す。 「だからよ。もう部隊が来るから二人はそちらに任せて大丈夫。入って何かあってもリモート端末の操作手順を説明してあるから、部隊に操作してもらえるから問題ないわ。一緒に入って協力しないと」 なんということを考えているんだと呆然とする。するとミンメイさんが 「置いてけぼりにされるのは嫌。一緒に入る」 とこれまた信じられない一言が。 「危険です、お勧めできません」 「せっかく人が増えたんだから別れたくない」 「分かりました。ビデオに自身の意思であることを記録して残します。何かあったらそれを伯父さんへお見せしますので。それが条件です」 「はい」 彼女の条件提示をミンメイさんは間髪入れずに了承する。彼女は端末のカメラをミンメイさんに向けて 「では録画します」 「リン・ミンメイは、生きてる限り夢に向かって次の目標へ行動します。ですからこの先に希望があることを信じて扉の先に進みます」 「了解です。良い言葉ですね」 「ごめん、三池さんの言葉勝手に借りちゃった」 この二人のやり取りに呆れまくる。彼女は記録したメモリチップを置き 「コピーして残しました。入りましょう」 すっかり主導権を奪われていることに気付く。観念して進むと、二人の女性が付いてくる。置き去りにされると思った輝くんが 「待ってよ」 と抗議する。 「フォッカーさんにメッセージを残さなくてもいいの」 「先輩ならいいよ」 と言って付いてくる。ミンメイさんが 「やっぱり輝、付いてきてくれたんだあ」 と喜ぶ。なので4人で扉に入る。入ると 「エアロックだと思うから閉めるよ。もう戻れないかもよ」 だが誰も戻らない。なので操作を実行し扉が閉まる。しばらくすると音声らしきものが流れる。やはりこれまでとは違うようだ。接続端子に接続しようとするが、その前に反対側の扉が開く。空気が抜けていくとか有害ということもなく、命には影響のない区画らしい。警戒しながら進んでいくと、これまでよりも少し広いスペースが確認できる。そして扉が閉まる音が聞こえる。聞こえはしたのだが、目の前の光景に意識が奪われていた。我々の目の前には、見慣れない構造ではあるが住宅らしきものが建ち並んでいる。自身で期待していた以上の結果に、驚く以外の感情が出てこなかった。次に、これなら何か約束でもしておくべきかなと思ったが、更に誰と約束するんだという疑問に笑ってしまう。そしてこの状況を正確に撮影して分析すべきと思い、スタンドを用意してビデオカメラでの撮影を始める。するとモニターにミンメイさんが住宅へ向かって走っていく姿が映る。そして振り返って 「見て見て、みんなで生活できそう」 と明るく言う。そして明るい歌を歌い始める。疲れからなのか安堵からなのか、その場で座り込む。すると隣に彼女が座り、ミンメイさんの歌を一緒に聴く。歌が終わると 「やっぱりミンメイは歌が上手いんだね」 と輝くんが言うと、二人で揃って 「確かに」 と呟く。タイミングが揃ったことで横を向くと彼女と見合ってしまう。そんな状況に二人で苦笑しあう。落ち着いた後、彼女は 「お疲れ様。これで全員を収容できそうよ。貴方がいなかったら、どうなっていたかしら。本当に感謝してます」 と曇り一つ無い最高の笑顔で、私の戦いを称賛してくれた。この笑顔を見せてくれたことが報酬だったのだろう。そんな称賛してくれた彼女に今お願いをしたら、困った顔をしつつも努力してくれるのかもしれない。でもそれはフェアではないなと思ったので、彼女を楽にさせるために偏屈な男を演じる方がいいかなと思い 「中尉、まだまだです。気密の確認もありますが、人数が増えて空気循環を維持できるのか、水は、重力制御は、エネルギー供給は、それらと出入りを含めたシステム管理をどうするのか。さらには食料問題もありますよ」 と多くある問題を並べて指摘する。返答はなく、何故か会話したことのある航空管制の少尉であれば問題を指摘したら悲鳴を上げて終わるだろうなあと思った。一息ついてから立ち上がり、ビデオカメラを回して現況の撮影を開始した。ここで悩んでも問題を解決するのは自分しかいないのだろうと覚悟を決める。すると彼女も立ち上がって 「確かにそうね。どうしたらいいのかしら」 と瞳を潤ませて私を見つめてくる。その瞳に勇気を与えるべきかと思って 「まずは人々の心に希望を与えるですかね。そうすれば時間を稼げるし、暴動を抑えることができるかもしれない」 「そのためには」 それも私に求められてもと思ったが、ふと直近で感嘆した事象を思い出す。撮影が終わったので、撮った映像を確認する。再度そのシーンへ戻してから 「これなんか使えませんか。その前にもいいのが撮れていません。協力してもらえると思うし、そんなに手間にならないので私も協力できると思うし」 と言ってそのシーンを流す。彼女は 「そうね、確かにそうね。他もあって忙しくなるかと思いますが、よろしくお願いします。私も引き続き協力します」 やっぱり前向きな人だなと思ってから 「はいはい」 と返事をする。 グローバル艦長との会談後、帰宅しようとすると軍施設の出口付近で呼び出しがかかる。呼び出したのはクローディア・ラサール中尉。 「帰宅中ですけど、何か」 「忘れてない?」 「はい?」 と忘れていますよという感じの返事をする。 「用意してと言ったわよね」 「いろいろと忙しかったので何のことやら。家が汚いから早く掃除したいんですよ」 「貴方ねえ」 と裏切られたという感じを込めた声を返してくる。すると後ろから先程まで打ち合わせしていた男の声で 「まだ交代前だな、良かった」 と聞こえてくる。それに応えるように甲高い声が 「もうすぐ交代です。終わったら早瀬中尉の誕生日を祝って、食事に行こうかという話をしてたんですよ」 と割り込んでくる。 「いいのよ別に私の誕生日を祝うような状況じゃないし」 「でも誕生日プレゼントがあったじゃないですか」 「こんな状況でですよ、うらやましいなあ」 「全部返しました。何一つ受け取っていません」 「もったいないなあ」 「早瀬中尉は人気があっていいですね」 とブリッジオペレータの脳天気な会話を聞かされる。 「そういうことよ。まだ思い出さないの」 とモニターの女性は非難するような強い感じで指摘してくる。そこへ 「三池君からブリッジオペレータの責任者へ渡して欲しいと預かっているのだが」 「クローディアは通話中なので私が」 「交代前にすまない、早瀬君」 するとモニターの女性が 「仕事のプレゼントなんて最低ね」 「覚えていませんか、寝ている若い女性をちらちら見るような最低な男だということを」 すると 「みんな、これを見て」 と彼女が普段の勤務中には出さないであろう声を出す。それを聞いて輝くんからおばさんと呼ばれて憤慨していた少尉らしき声が 「早瀬中尉、まだ勤務中です」 と言うと彼女が 「すみません」 と謝る。だが 「交代直前だし影響なければ大丈夫よ、恭子」 「で、何ですか早瀬中尉?」 「早瀬中尉がそんなに興奮されるなんて珍しいですね」 「いいですよね艦長」 自分で渡したということもあってか男が 「ああ」 と曖昧な返答をする。すると彼女は 「子供達が描いてくれた絵よ。日本では3月3日は雛祭りという女の子イベントなのよ。その日は人形を飾るんだけど、その人形を描いてくれたの」 と嬉しそうに説明する。 「可愛い」 「”いつも守ってくれる美人のお姉さん達ありがとう”って」 「なんで美人って知ってるのかしら」 「有名になっているのよ」 と人形と感謝の言葉が記された何枚もの絵を見て盛り上がる声が聞こえる。その様子を見ていたモニターの女性は向き直って 「さすがの未沙も艦長からのは受け取るわよね。でも交代後だったらどうするの?」 「交代前にはブリッジにいるようにしているんですよね、艦長さんは」 「私が受け取ったら?」 「素知らぬ顔をして渡してくれたと思いますけど」 「策士ね。でもこれはブリッジオペレータ宛じゃないの。私が頼んだのとは違うわ」 それには 「はて」 と首を傾けながら返事をする。 「すみません、家を片付けたいのでそろそろ失礼します」 と言って一方的に通話を打ち切る。当番兵と今の生活状況について少し情報交換してから、軍施設を出る。すると先程話していた当番兵が追いかけてきて 「三池調整官、艦長より緊急通信が入ってます。急ぎ戻ってください」 と。何か緊急事態にでもなったかと思い通信端末へ戻る。すると 「なにをしたの」 とモニターの女性が問いかけてくる。 「それはこちらが聞きたいのですが。艦長から緊急通信って」 「貴方を呼び戻す口実よ」 「なんとまあ」 「早く」 「何を説明しろと」 「未沙が見慣れない押し花を見て固まっているんだけど」 笑いながら 「人が固まっている理由なんて説明できないですよ」 と論点をずらそうとするが 「押し花の説明」 と強引に戻される。 「私たちが見つけた居住区画に、花が咲いている場所があったんですよ。地球上の花ではないですから素性が分からないということで、処分しようかということなりましたが。処分に反対した人がいて」 と話すと、女性達が 「早瀬中尉、いいことがあったし今日は食事に行きましょうよ」 「そうそう」 「どこにしましょうか」 と会話している。ポンと小さな音が聞こえてから女性が 「食事会はなしね」 とその会話に割り込む。 「なんでですかあ」 「ずるい、付き合いが長いからって早瀬中尉を独占するつもりですか」 という抗議を無視して 「未沙は今日罰ゲームをしないといけなくなったから」 「罰ゲーム?」 「なんで誕生日に」 と理解できないという感じで女性達の声が聞こえる。彼女が 「クローディア、何で私が罰ゲーム?」 と尋ねる。それを無視して 「ということで帰って家の掃除をして。未沙は場所を知っているんでしょ」 誰に言っているだろうと思っていると 「三池くんの家の場所」 「はあ」 と突然出された自分の名前に反応して間抜けな声を出す。 「クローディア」 と彼女が友人に改めて尋ねるが 「可愛い寝息だったよね、三池くん」 と強烈な言葉が出てくる。それになんというべきか思い浮かばず黙る。その一方で女性陣の驚く声が聞こえる。それを無視して 「彼にお願いをしたの。合格したら先に寝た未沙が罰ゲーム」 「そんな話をしましたっけ」 どうやら通話をオープンにされているらしい 「したわよ。素直じゃないけど、見事に合格なんだもの」 そのときブリッジ交代要員の声が聞こえてくる 「お疲れ様です。ねえねえ三池調整官に珍しいお菓子をもらったの」 とはしゃぎながら入ってきたようだ。それを聞いて 「貴方、まめねえ」 「ガキを集めるのに土産でもないとね」 と悪い感じになるといいなと思いながら答えてみる。話題の当人からの言葉に 「えっ、えっ」 と戸惑う女性達の声を無視して 「なんで汚いんだっけ。正直に言わないとロイと一緒に行くわよ」 「フォッカーさんが来ると大変そうだな。お土産やら人形を作る際に余ったゴミが貯まってしまいまして」 「人形?」 「描いてもらうのに見本がないと。見本も自分で作らせましたけどね」 「褒めてあげる。ずいぶんと手間がかかっているのね。で見本の見本はないの」 「今日ぐらいは飾ってあげようかと。男なんで片付けるのが遅れても影響ないでしょうし」 と素直に答える。 「未沙、ヒナマツリだっけ楽しんできてね。で材料代は私にね」 「材料代」 と彼女が尋ねる。笑いながら 「それは負担しますよ」 と答える。 「いいのよ。私が勝手に頼んだことだし。見事だったし。何がいい」 「それはお任せで。そもそもお得意なのか不明ですし」 と揶揄しているのが伝わるといいなあと思いながら答えると 「未沙は上手よ」 とストレートに返されて 「でもお任せしますよ。すみません掃除しないといけないのでそろそろ」 「そうね」 というと 「未沙への罰ゲームはね」 と説明している間に通信を切る。そして我が家を掃除するため軍施設を出る。
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